脳と腸の機能研究が進むにつれて、「脳腸相関」が指摘されるようになりました。脳と腸の関係性については、ストレスがかかると下痢や便秘になりやすいことは以前から知られていました。腸の働きは自律神経の交感神経と副交感神経の働きに影響されていて、ストレスが強まって交感神経の働きが盛んになると、腸の消化が低下して、腸の吸収も蠕動運動も低下します。そのために便秘になりやすくなりますが、便秘になると腸内に有害物質がたまりやすく、これを排泄するために下痢が起こるという不快な状態が起こります。
腸内環境とうつ病、自閉症に関する研究も進められていて、国立精神・神経医療研究センターの研究チームが、うつ病患者と健常者の腸内細菌を比較したところ、うつ病患者は善玉菌の代表であるビフィズス菌が少なく、乳酸菌も少なくなっていたと発表しています。脳と腸のどちらが影響しているかということですが、うつ病では末梢神経や中枢神経の慢性的な炎症がビフィズス菌を減らすことを研究チームは指摘しています。このことが脳が腸に影響を与えているという考えです。
発達障害の自閉症スペクトラム障害と腸内細菌の関係については世界的に研究が進められていて、アメリカ・アリゾナ州立大学の研究チームは、自閉症スペクトラム障害の児童は腸内細菌の多様性が低くて、町内環境が乱れやすいと報告しています。腸の状態が悪いほど自閉症スペクトラム障害の状態が悪くなっているとして、自閉症スペクトラム障害の児童に健康な人の腸内細菌を移植したところ、2年間はかかったものの、自閉症スペクトラム障害の状態が改善したと発表しています。試験前には83%が重度の状態だったものが、2年後には重度は17%にも減って、ビフィズス菌のほかに、腸壁を守る酪酸を作り出すプレボテラ菌が大きく増加したといいます。
腸内細菌移植は日本では一般に受けることができないため、腸内環境を整えるためのビフィズス菌の摂取、善玉菌を増やす糖質や食物繊維の摂取を心がけるというところから始めるべきだということになります。アメリカでは食物繊維の摂取が多いとうつ病のリスクが低くなり、台湾では子どもに乳酸菌を毎日摂取させたことによって発達障害の注意欠陥・多動性障害の改善がみられたと報告されています。