発達障害の自閉症スペクトラム障害にみられる感覚過敏は、食事の内容に影響を与えることになり、中には感覚過敏のために極端な偏食になる例も少なくありません。食べることに直接的に関わってくるのは味覚過敏ですが、味覚以外にも食べられるものを制限するような感覚過敏が多く確認されています。
温かいものは温かく、冷たいものは冷たくして提供するのが料理の基本です。温かさの基準となるのは60℃です。温かいは80℃、60〜80℃がぬるいというのが通常の感覚です。この温度なら熱いとは感じないように思われるところですが、感覚過敏には60℃以下で、冷めていると感じるような温度であっても火傷しそうに熱く感じる人がいます。これとは逆に冷たいものが痛みを感じて飲めないという場合もあります。冷蔵庫の温度は5℃が中心温度で、10℃以下に保たれるように設定されています。冷蔵庫から出して、おいしく感じるサラダの温度は10℃以下とされていますが、これでも痛みを感じるのが感覚過敏の特徴です。感覚過敏では氷が歯に当たっただけで強烈な痛みにも感じます。
「茹で野菜なのに固くて痛みを感じるので食べられない」ということもあれば、「三つ葉の茎が喉に刺さる」と訴える人もいます。固いものを噛むには歯にも歯茎にも強めの刺激があるのですが、この刺激を痛みと感じると、その痛みを避けるために固いものが食べられなくなってしまいます。野菜の食物繊維が刺さるという感覚は、細かく刻む、食物繊維の中でも刺激が弱い水溶性食物繊維が多く含まれるものに変えるということで対応できます。しかし、これは家庭での食事の場合で、外食では食材や調理法を完全に選ぶのは難しいことです。
感覚過敏の中には、食器や箸、スプーン、フォークなどが変わると口の中の感覚が変わって食べられなくなるということがあります。食器やグラス、口元に食べ物を運ぶ箸などが味にも影響するのは知られていることですが、それでも普通は少し味わいが変わるだけで、食べられないということはありません。しかし、いつもと違う食器では食欲が湧かない、茶碗の大きさや形が違うと手で持てない、金属の食器では食べられないとなると、これは味覚や嗅覚、視覚、聴覚、触覚という、これまで食事に影響を与えてきたことに対応するだけでは、どうにも解決できないことです。