発達障害の日中の眠気は遺伝子が関係している

発達障害の自閉症スペクトラム障害も注意欠如・多動性障害も、日中に眠気が起こり、生活リズムの維持にも学習や仕事にも影響が起こっていますが、その理由となると、いまだに解明されていません。そもそも自閉症スペクトラム障害も注意欠如・多動性障害も脳の発達のズレで、脳の一部の機能が低下していることが指摘されているものの、具体的な原因もわからなければ、発生するメカニズムもわかっていません。
とはいえ、医薬品を用いた発達障害の治療の研究は進められていて、神経伝達物質のドーパミンやノルアドレナリンを活発にすることによって改善を図っていく方法があり、これによって睡眠に影響が出ることもわかってきています。注意欠如・多動性障害の場合は、ドーパミンやノルアドレナリンの働きが低下すると注意力が低下して覚醒状態を維持できなくなることから、日中に眠気が起こることが考えられています。
こういった研究の一つとして、浜松医科大学子どものこころの発達研究センターの研究グループが、ナルコレプシーと呼ばれる睡眠障害と注意欠如・多動性障害の特性が遺伝的に関連していることを発表しています。これによって注意欠如・多動性障害の人が日中に感じている眠気は、体質として遺伝子の影響である可能性が高いことが示されました。
この研究は、浜松医科大学子どものこころの発達研究センターが出生から追跡研究をしている8〜9歳の726人を対象にして約650万か所の遺伝子変化を解析して、睡眠障害と関連する遺伝子変化の度合いを表すポリジェニックリスクスコアを計算しました。ポリジェニックは頻度の高い疾患や身長、体重などの形質での多数の(ポリ)遺伝的変異の影響(ジェニック)が組み合わされ、足し合わされて全体の遺伝的な影響が説明されることを指しています。ポリジェニックリスクスコアは大規模なゲノムワイド関連解析研究(ヒトゲノム配列上に存在する数千万か所の遺伝子変異とヒト疾患との発症の関係を網羅的に検討する遺伝統計解析手法)により疾患や形質との関連が示唆された数十〜数千の遺伝的変異の重みつきの和を個人ごとに計算したスコアのことをいいます。このスコアは実際の疾患発症リスクと相関することが示されていて、集団内でスコアの分布を調べることで、特にその疾患のリスクが高い個人を特定することができます。
ポリジェニックリスクスコアが高いと多動性・衝動性症状や不注意症状を測定する尺度の点数も高くなる傾向が示されました。また、ドーパミンに関与する遺伝子変化が睡眠障害と注意欠如・多動性障害に共通していることもわかりました。
浜松医科大学子どものこころの発達研究センターによると、注意欠如・多動性障害は、じっとするのが苦手な多動性・衝動性症状や集中力の持続が難しい不注意症状が特徴で、18歳以下の約5%、成人の約2.5%にみられます。注意欠如・多動性障害を有する人が思春期前後から日中に強く生じやすい眠気は、不規則な生活習慣や睡眠不足が原因だとして、学校や職場で怠けていると誤解されるケースが多くなっているといいます。注意欠如・多動性障害の支援には、眠気を理解することが重要になるということです。