発達障害の自閉症スペクトラム障害は、脳の機能の一部の障害が原因として考えられていますが、それ以外の原因がないのか、他の原因と合わさって起こっているから予防も改善もできるのではないということは以前から言われてきました。しかし、実際に何が原因なのかを見つけることは困難で、自閉症スペクトラム障害の子どもの検診が繰り返されてきました。その原因の一つとして、福井大学などの研究チームが発表したのが低脂血症です。
中性脂肪やコレステロールの値が正常域から外れている状態は脂質異常症と呼ばれ、高脂血症と低脂血症に分けられます。高脂血症は中性脂肪値が150mg/dl以上、LDLコレステロール値が140mg/dl以上、HDLコレステロール値が40mg/dl未満が診断基準で、これについては動脈硬化のリスクとともに広く知られるようになってきています。高脂血症のほうは動脈硬化のリスクを高め、これが心疾患(心筋梗塞、心不全など)、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)のリスクを高めることから、できるだけ中性脂肪値と悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロール値を低く抑えて、善玉コレステロールとも呼ばれるHDLコレステロール値を高めにしようということが呼びかけられています。
低脂血症は中性脂肪値が30mg/dl未満、LDLコレステロール値が70mg/dl未満、HDLコレステロール値が40mg/dl未満が診断基準となっています。低脂血症の場合には重要なエネルギー源の中性脂肪が少なく、細胞膜の材料となるコレステロールが少ないことから発育不良、知的能力障害を引き起こすことが知られていましたが、発達障害との関連については充分には知られていませんでした。
福井大学などの研究チームは、2005年から自閉症スペクトラム障害の診断基準を見つけるために、世界の研究結果などを踏まえて血液中の脂質の量に注目して、2〜19歳の自閉症児150人と、健常児130人の脂質の濃度を検査しました。その結果、健常児は脂質を包んでいる粒子の濃度が血液1dl当たり約45mgであるのに対して、自閉症児は約32mgと3分の2程度であることがわかりました。また、脂質を包んでいる粒子の濃度に関係しているのはVLDL粒子と呼ばれる脂質を含む特定のタンパク質で、これが壊れることによって低脂血症が起こることも確認されています。
脂質の濃度だけで幼少時に自閉症スペクトラム障害を見分けることはできないものの、血液検査によって早い段階で発症の有無を判断することができるなど、治療に貢献できる可能性があります。