糖よりも脂肪のほうが身体にはよくないのか

「糖と脂肪は、どちらが身体によくないのですか」という質問が来ました。もっと条件をつけてくれないと、どう答えても間違いということになってしまうので、質問者の雑誌記者に何を目的としているのかと質問返しをしたところ、「脂肪のほうがよくないという人が多いので、糖のほうがよくないという理屈がないかと思って」とのこと。こういった質問があるということは、一般に“脂肪はよくない”という考えが広まっているからですが、あえてよくないほうをあげろと言われたら、糖をあげます。
これは糖尿病と脂質異常症を比べると糖尿病が圧倒的に多いことが関係しています。国民健康・栄養調査(平成28年)によると糖尿病が強く疑われる者(糖尿病患者)は約1000万人、糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備群)は約1000万人と全国民の20%が糖尿病か予備群と推定されています。この割合とされているのは調査対象が20歳以上人口の約1億人だからです。
それに加えて、脂質異常症という言葉が一般に広まっていないこともあります。脂質異常症は、以前は高脂血症と呼ばれていました。高脂血症とされたのは高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症ですが、HDLコレステロールは数値が高いことが悪いわけではなくて、低いことで動脈硬化のリスクが高まることから高脂血症という名前がふさわしくなくなり、2007年から日本動脈硬化学会によって脂質異常症という病名が使われるようになりました。
“脂肪はおいしいのでたくさん食べられる”と言われていますが、これは脂肪が多く含まれる肉や魚がおいしいのであって、脂肪だけを取り出して脂身を食べてもバターを舐めても、そんなに多くの量を食べられるものではありません。それに比べたら糖質が多く含まれた主食(ご飯、パン、麺類)は相当の量が食べられます。限界に近いほど食べた後でも、まだ食べられます。主食に脂肪だけでも食べることができます。肉だけを食べていて、もう食べられないという限界を過ぎたときに、ご飯と一緒だと、さらに食べられるようになります。これが糖質の威力です。
これは“別腹”というよりも、血糖値と満腹中枢の関係があるからです。ブドウ糖を多く摂って血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌されてブドウ糖が細胞に取り込まれることから血糖値が下がります。血糖値が下がると摂食中枢が盛んに働くようになり、食欲が高まってきます。その結果、また食べられるようになります。
砂糖はブドウ糖と果糖が1対1の割合で構成されていて、一気に血糖値を上昇させます。砂糖が多いものは、食べても食欲が進むために、いつまでも食べられるという恐ろしさがあります。もっと恐ろしいのは砂糖とぶどう糖果糖液糖が使われたスポーツ飲料などのペットボトル飲料で、血糖値の上昇が引き金のインスリンによる血糖値の急降下、そのための空腹感、それを解消するための飲料の過剰摂取というペットボトル症候群(清涼飲料水ケトーシス)に陥り、血糖値が高まりっぱなしの状態にもなります。
血糖値が高い状態が長く続くと、血管の細胞に多く取り込まれたブドウ糖によって細胞の新陳代謝が低下します。これが血管の老化の始まりで、血管から老化は始まるものの全身の細胞に影響が出てきます。こうなると少しコレステロールが増えて、コレステロールが活性酸素によって酸化しただけでも動脈硬化のリスクが大きく高まることになり、脂肪の増加と比べ物にならないくらいに健康被害を引き起こすという説明をさせてもらいました。