糖質制限は、その名のとおり、食事で摂る糖質の量を制限することです。日本人の食事摂取基準(2015)によると1日の摂取エネルギーのうち糖質を50〜65%、脂質を20〜30%、たんぱく質を13〜20%のバランスで摂ることが推奨されています。半分以上のエネルギー量を摂るべきとされる糖質を制限するのですから身体に影響が出ることは当然のように考えられます。
その影響をよい方向で捉えてすすめているのが“糖質制限派”で、「糖尿病は糖質に含まれているブドウ糖によって引き起こされているので、糖質制限をすれば血糖値が安定する」と言います。糖尿病の診断基準となっている血糖値は、血液中のブドウ糖の量を示しているので、身体の中に入ってくるブドウ糖が減れば、それだけ血糖値は下がります。血糖値が下がった状態で血液検査をすれば、低くなるので、糖尿病ではないということになるのかもしれません。
糖質制限によって血糖値が下がったことで、「糖尿病が治った」ということを言っている人もいます。また、中にはインスリン注射を使っていて、それで血糖値が下がっているので甘いものを食べても血糖値が一定よりも上昇しないことから、これを治ったと表現している人もいて、これは困ったものだと思っています。
血糖値だけに注目した話なら、これでよいのかもしれませんが、血糖値は糖尿病の指標であって、本質的なことではありません。全身の細胞はブドウ糖を取り込んで、中にあるミトコンドリアという小器官でエネルギーを作り出しています。ちゃんと取り込めていて、エネルギーとなっていれば糖質を多く摂っても血糖値が大きく上昇することはなく、食事から時間が経過すれば血糖値は下がっていきます。ところが、時間が経過しても血糖値が上昇したままということがあり、これが糖尿病です。細胞に取り込まれなかったブドウ糖が血液中に戻り、血液中のブドウ糖が濃くなった状態が血糖値です。糖尿病の血糖値は食事で摂ったブドウ糖だけを問題にしているわけではないのです。
一般には食事で摂るエネルギー量の半分以上が糖質となっているのは、糖質の中に含まれるブドウ糖が重要なエエルギー源で、すぐにエネルギーとして使われやすいからです。それなのに糖質制限によって身体の中に入ってくるブドウ糖が少なくなると、細胞に取り込まれるべきブドウ糖が、ますます減るようになります。糖尿病は、ただでも細胞がエネルギー不足になっているところに、ブドウ糖の量が極端に減ってしまうと、細胞は飢餓状態にもなります。そして、全身の細胞を正常に働かせ、活動に欠かせないエネルギーが充分に作り出せないことにもなります。
糖尿病で入院すると、ご飯の量が驚くほど多い“糖質無制限”の食事にビックリする人も多いのですが、これはブドウ糖を取り込む能力が低いことから、多くの量を摂ってもらい、エネルギー不足にならないようにするための処置です。身体を動かすのにも、病気と闘うのにもエネルギーが必要です。そのエネルギーを作り出すためのエネルギー源が糖質というわけですが、糖質を摂って、しっかりと燃焼させてエネルギーを作り出すためには、エネルギー代謝を促進するための成分が必要です。それは三大ヒトケミカルと呼ばれるα‐リポ酸、L‐カルニチン、コエンザイムQ10です。どれも体内で合成されるものの20歳代をピークに減少し続ける成分で、糖尿病の人では特に大きく減っています。
となると、やるべきは糖質を無理に制限するのではなくて適正量に控えて、エネルギー源を確保した上で、三大ヒトケミカルを摂るようにすることです。α‐リポ酸、L‐カルニチン、コエンザイムQ10については、このサイトの「サプリメント事典」を参照してください。