脳の健康寿命29 ブドウ糖は記憶に多く使われる

全身のエネルギー源のうち20%ほどは脳で使われています。脳は重量としては1.2〜1.4kgで、体重の2〜3%しかないのに、非常に多くのエネルギーが必要です。脳のエネルギー源はブドウ糖だけであり、少なくとも1日に100gのブドウ糖が脳には必要とされています。ブドウ糖の割合が最も高いのは砂糖で、ブドウ糖と果糖が1対1となっています。砂糖でもブドウ糖は半分なので、相当の量が必要だということがわかります。
血糖値が高い状態では膵臓から多くのインスリンが分泌され、それが長く続くと膵臓が疲弊してきて、インスリンの分泌が低下します。インスリンの作用によって細胞にブドウ糖が取り込まれるので、高血糖状態では脳細胞にブドウ糖が充分には取り込まれていないことになります。そのため、脳細胞の中で作られるエネルギーも少なくなり、エネルギーが不足することから脳を正常に働かせることができなくなることが懸念されます。
脳の中でも特にブドウ糖が多く使われ、インスリンも多く必要となっているのは記憶を司っている大脳辺縁系の海馬です。認知症や、認知症の予備群である軽度認知障害の人は海馬のブドウ糖が少なくなっていることが確認されています。また、インスリンの分泌量が少ないと認知機能が低下することも知られています。
糖尿病患者は認知症のリスクが高く、これまでは高濃度のブドウ糖によって血管の老化が進むことが主な原因と考えられていましたが、脳細胞のエネルギー不足も大きな要因となっていることから、糖尿病予防の重要性が知られるようになってきました。糖尿病はインスリンが分泌されにくい体質があり、それに加えて食べ過ぎや運動不足などによって血糖値が上昇して膵臓に負担がかかることが原因とされています。日本人は歴史的に糖質も脂質も多く摂ってこなかったために、国民的にインスリンが分泌されにくい体質があるので、食べ過ぎなどで糖尿病になりやすいという弱点を持っています。