“8020運動”という厚生労働省の健康づくり運動があります。運動といっても、身体を動かすほうの運動ではなくて、みんなで行動を起こすほうの運動です。これは1989年に当時の厚生省と日本医師会が一緒になって始めたもので、「80歳になっても20本の以上の自分の歯を保とう」というスローガンが掲げられました。
永久歯は親知らずを含めて32本がありますが、このうち20本以上の歯があれば食生活に問題なく、生涯にわたって自分の歯で食べることができて、健康も保てるということが示されています。20本以上の歯があれば咀嚼も充分にできて、消化も吸収もよくなるということですが、1989年の平準寿命は男性が75.91歳、女性が81.77歳で、80歳というのは健康状態が高い人の年齢と考えられていました。
実際に、どれくらいの人が8020運動を達成できているのかというと、開始当初は7%ほど(残存本数では4〜5本)でした。厚生労働省は2005年に「歯科疾患実態調査」を実施していますが、そのときの結果は80〜84歳で21.1%、85歳以上では8.3%と達成率が上がりました。
そこで厚生労働省は国民的な健康づくり運動の「健康日本21」で8020運動の達成率を20%の目標を掲げましたが、2007年の中間報告では25%の達成率となっていました。さらに2017年の「歯科疾患実態調査」では51.2%にもなっていました。
20本の歯があれば80歳までは生きられるという意味ではないのですが、8020運動には歯の本数が多いほど行動的になり、それが健康づくりに役立つとの考えもあります。美味しいものを食べに外出する、外出して友人などと会うという行動が身体の健康にも脳の健康にもプラスに働くということです。
噛むことは脳の刺激にもなり、歯が失われるほど認知症になりやすいことは以前から指摘されていました。神奈川歯科大学の研究では歯が20本以下の人は20本以上の人に比べて1.9倍も認知症リスクが高いことが報告されています。
脳の健康寿命を延ばすためには、歯の健康も重要だということがわかります。