血管を軟らかくする運動は早歩きなのか

健康を扱ったテレビの情報番組を見ていて、この内容だとメディア関係者から質問が来るな、と思っていたところにメールが入りました。ここらへんの質問だろうかと想像していましたが、その想像と違った質問でした。番組の内容は“血圧の波”のサージ(Surge)で、血圧を上昇させる危険因子が重なると早朝に大きく血圧が高まるモーニングサージが起こり、それが脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす要因ということを紹介していました。確かに救急搬送される人は早朝に多くなっています。その危険因子として喫煙や深酒が取り上げられていて、それに関連することと思っていました。ところが、あったのは「血管を軟らかくする運動は早歩きですか」という質問でした。
番組の最後のほうで、「血圧を安定させるためには運動がよい」という話があり、それを説明するようにウォーキングのシーンがありました。これは「この運動がよい」という説明映像ではなく、イメージ映像のようでした。ウォーキングのシーンで、しかも早歩きをしていたことから、“早歩き”を推奨していると感じた人も多かったようです。しかし、血圧を上昇させるような“速歩き”であったのですが、専門家のコメントは「運動は一時的に血圧を上昇させるものの血管を軟らかくする物質(一酸化窒素)が出るので血圧上昇を抑える」という主旨でした。
あまりに早く歩くと血圧が大きく上昇して、一酸化窒素のプラス分を超えてしまうことにもなるので、少し早歩き程度のウォーキングのシーンを出してほしかったところです。
想像をしていた質問と違った、という話を伝えたところ、そのことに追加質問がありました。深酒も喫煙も血圧を20mmHgほど上昇させるということでしたが、朝に起床しただけでも20mmHgほど上昇します。早朝に55mmHgの上昇があると危険度が大きく高まります。さらに深酒によって睡眠不足が起こることでも15mmHgの上昇があるので、深酒と喫煙、起床、睡眠不足の4つで75mmHgとなると通常の血圧の範囲の方でも完全に危険エリアに突入していくわけです。
これは正しいことではあるのですが、単純な足し算ではないということです。タバコを吸うと胃の中に入って胃壁についたニコチンなどの有害物質が徐々に腸に流れていって血管に入っていきます。そのときに飲酒をしているとアルコールが有害物質を一気に溶かして、濃い状態で胃壁から吸収されて血管に入ってしまいます。この有害物質が血圧を一気に上昇させることになります。つまり、深酒だけでなく、適度な飲酒であってもタバコを吸っていると血圧を急上昇させることになってしまうのです。
どれくらいの飲酒量なのかというと、日本酒換算で1合(ビールなら大ビン1本)では血管が緩んで血圧が下がり、2合までは下がった状態が続くというのが一般的です。これ以上の飲酒量になっても血管の緩みは続きます。しかし、血管が大きく緩むと全身の血流量が減って脳や内臓などの血液量が減るので、危険を回避するために反転して血圧が上昇します。つまり、2合以上の飲酒は血圧を大きく上昇させていく可能性が高いということです。