厚生労働省は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を公表しました。その中の高齢者版の推奨事項の「科学的根拠」を紹介します。
〔科学的根拠〕
「健康づくりのための身体活動基準2013」においては、高齢者を対象にしたコホート研究をレビューした結果を踏まえ、強度を問わず身体活動を週10メッツ・時行うこととしていましたが、本ガイド策定に向けたアンブレラレビューの結果、強度が3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上行う高齢者は、身体活動をほとんど行わない高齢者と比べて総死亡及び心血管疾患死亡のリスクが約30%程度低下することが示されたことや、高齢者の現状の身体活動量を踏まえて推奨値を週15メッツ・時に変更しました。
推奨値(週15メッツ・時)を達成しないような少しの身体活動を行った場合でも、身体活動をほとんど行わない場合と比較すると死亡率は低下します。むしろ、身体活動の少ない人ほど、少しの身体活動で大きな健康増進効果が期待できます。
また、身体活動と認知機能に関するアンブレラレビューにより、有酸素性身体活動は認知機能低下を予防する可能性があることが認識されています。
推奨値を超える身体活動であっても、さらなる健康増進効果を得られる可能性があります。体力のある高齢者では成人と同量の週23メッツ・時を目標にしましょう。“やりすぎ”の身体活動量はまだ明らかではありませんが、怪我や体調に注意して無理をしないことが大切です。
多要素な運動によって、転倒・骨折が減少し、身体機能が維持・向上します。多要素な運動を主体とした運動プログラムにより、転倒リスクは12〜32%、転倒・骨折のリスクは15〜66%の低減が認められています。
科学的根拠となるランダム化比較試験の運動プログラムの頻度は、週3日が最も多く採用されていました。
座位時間と死亡リスクの関係について検討した34件のコホート研究を統合したメタ解析によると、座位時間の増加に伴い、死亡リスクが増加することが報告されています。
一方、1日60分以上の中強度以上の身体活動を行うことにより、座位行動による死亡リスクの低下が期待できることや、長時間の座位行動をできる限り頻繁に(例えば、30分ごとに)中断(ブレイク)することが、食後血糖値やインスリン抵抗性などの心血管代謝疾患のリスク低下にとって重要であることも報告されています。
また、強度を問わず、少しでも身体を動かすことが健康によい影響を及ぼすことが報告されています。立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かすことを推奨します。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕