酸素を多く取り入れると免疫が向上するのか

がん細胞は嫌気性だと言われています。この嫌気性という性質を殊更に大きく取り上げて、「酸素が嫌いなので酸素を多く取り入れれば、がんに対抗できる」というような発言をする人がいます。がん細胞が嫌気性であることは間違いがないことではあっても、だから酸素を多く摂取すればよいというのは、あまりに乱暴な考えです。
嫌気性というのは酸素を使わずに糖を使って乳酸を生成することを指しています。全身の細胞は基本的には酸素を使って、糖をエネルギー源にしてエネルギー代謝を行っています。細胞の中のミトコンドリアに糖(ブドウ糖)と酸素を取り込んで、TCA回路で代謝を起こして、エネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)を作り出しています。その量はブドウ糖1分子につき、36個のATPとなっています。
酸素がない状態、少ない状態ではエネルギーが作り出せないのかというと、そんなことはなくて、ミトコンドリアの機能を使わなくてもブドウ糖1分子について2個のATPが作り出される仕組みがあります。
がん細胞の嫌気性についてはワールブルグ効果と呼ばれるドイツのオットー・ワールブルグ博士(ノーベル賞受賞者)が発見した仕組みがあるのですが、酸素を使わずに糖を使って乳酸を生成するということの前に「がん細胞は酸素存在下でも」という重要な言葉がついています。
人間の通常の細胞は分裂するときに、1個ずつしか増えないように制御されているのですが、がん細胞に変化すると制御が外れて、1個の細胞が2個になり、そこから先は4個、8個、16個、32個、64個、128個……というように倍々で増殖していきます。この急激な増殖に対応するために酸素を使わずにエネルギーを作り出す嫌気代謝を起こしているのです。
酸素があろうが、なかろうか嫌気代謝で増殖していくので、酸素を多く与えるように酸素を吸収したり、多くの酸素を取り入れる運動をしたり、酸素カプセルに入ったりしても、がん細胞の増殖には無関係だということです。
では、酸素を取り入れることは意味がないのかというと、そんなことはありません。がん細胞に限らず外敵と戦う白血球は細胞であるのでミトコンドリアが存在していて、酸素を取り込むことによってエネルギーを作り出し、そのエネルギーを使って外敵と戦っています。多くの酸素を取り込むことは白血球を活性化させるためには有効であり、非常に大切なことであるということです。