「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、栄養素の指標を設定しています。ここでは栄養素の指標の各項目について、前回に続いて紹介します。
〔耐容上限量〕
健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限として定義されます。
これを超えて摂取すると、過剰摂取によって生じる潜在的な健康被害のリスクが高まると考えられます。
理論的には「耐容上限量」は、「健康障害が発現しないことが知られている習慣的な摂取量」の最大値(健康障害非発現量)と「健康障害が発現したことが知られている習慣的な摂取量」の最小値(最低健康障害発現量)との間に存在します。
〔目標量〕
生活習慣病の発症予防を目的として、特定の集団において、その疾患のリスクや、その代理指標となる生体指標の値が低くなると考えられる栄養状態が達成できる量として算定して、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量として設定されます。
これは、疫学研究によって得られた知見を中心として、実験栄養学的な研究による知見を加味して策定されるものです。
しかし、栄養素摂取量と生活習慣病のリスクとの関連は連続的であり、かつ閾値が存在しない場合が多くなっています。このような場合には、好ましい摂取量として、ある値または範囲を提唱することは困難となっています。
そこで、諸外国の食事摂取基準や疾病予防ガイドライン、現在の日本人の摂取量・食品構成・嗜好などを考慮して、実行可能性を重視して設定することとしています。
また、生活習慣病の重症化予防およびフレイル予防を目的とした量を設定できる場合は、発症予防を目的とした量(目標量)とは別に示されます。
各栄養素の特徴を考慮して、基本的には次の3種類の算定方法が用いられます。なお、次の算定方法に該当しない場合でも、栄養政策上、目標量の設定の重要性を認める場合は基準を策定することとしています。
1 望ましいと考えられる摂取量よりも現在の日本人の摂取量が少ない場合
範囲の下の値だけを算定します。食物繊維とカリウムが相当します。
これらの値は、実現可能性を考慮して、望ましいと考えられる摂取量の現在の摂取量(中央値)との中間値を用いています。小児については、目安量で用いたものと同じ外挿方法(参照体重を用いる方法)を用いています。ただし、この方法で算出された摂取量が現在の摂取量(中央値)よりも多い場合は、現在の摂取量(中央値)を目標量としています。
2 望ましいと考えられる摂取量よりも現在の日本人の摂取量が多い場合
範囲の上の値だけを算定します。飽和脂肪酸、ナトリウム(食塩相当量)が相当します。
これらの値は、最近の摂取量の推移と実現可能性を考慮して算定しています。小児のナトリウム(食塩相当量)については、推定エネルギー必要量を用いて外挿して、実現可能性を考慮して算定しています。
3 生活習慣病の発症予防を目的とした複合的な指標
目標とする構成比率を算定します。
エネルギー産生栄養素バランス(たんぱく質、脂質、炭水化物が、総エネルギー摂取量に占めるべき割合)が、これに相当します。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕