臨床栄養の世界にいたことで、医師を養成する医学部の中には栄養学講座がないところが多く、あっても必修でないので学ばずに卒業した医師が多いことを知り、医師が栄養学を学ぶ場を作る団体の応援をしてきました。医師が栄養学を学ばないのは授業にない、必修でないということだけではなくて、病院で栄養指導をして保険点数がつくのは管理栄養士だけという制度があることも関係しています。私の栄養学の師匠が、その制度の設立を中心となって進めてきた方なので、なおさら臨床栄養の知識取得の推進に一生懸命に取り組んできたつもりです。
臨床栄養への理解が広がる中で、これは難しいなと感じたのは食品学の習得でした。医師育成の教育の中に栄養学はあっても食品学はないために、食品の栄養素は知っていても安全性の問題、つまり農薬、化学肥料、食品添加物の知識については一般レベルと変わりがないという現実があるからです。
そう感じて、若いときから食品の製造や加工に関わる会社や団体を取材して回ってきましたが、全体像を教えてくれたり、関係先を紹介してくれたのは、全国農業協同組合中央会の広報部長であった、子どものときの“隣のお兄ちゃん”でした。
私が子どものときには、白米を食べても今では信じられないようなものが入っていました。それは米と同じくらいの大きさの小石で、それを注意しながら箸でご飯を口に持ってくるというのは当たり前でした。それをしないで掻き込むと痛い思いをするし、歯を傷めることにもなりかねないので、今の子どもたちに注意される“犬食い”は怖くてできないことでした。
子どものときには同級生の大半は農家の子どもという地方にいたので、農薬の空中散布も、法律で禁止されている収穫直前の農薬使用も普通に目にしていました。今でこそ農薬や食品添加物の残留の表示は厳しくなっていて、以前に比べたら確認しやすくなっているものの、抜け穴はいくらでもあります。普通に使っている食塩や生の卵に食品添加物が含まれているとは思わないでしょうが、それは当たり前に続けられているのが今の規制の限界です。
この話は講演やセミナーでは受講者の関心が高いのですが、そのために質問は食品の安全性のことばかりになって、肝心な健康づくりのための食事や運動の話が途中になってしまうこともあるので、食事や運動の話と、安全の話とは機会を分けるようにしています。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)