血圧サージという言葉が随分と広まってきました。サージ(surge)というのは高波の意味だと紹介されていますが、正確には「波のように押し寄せる」ことを指しています。血圧サージは、普段は正常な範囲の血圧であるのに、一時的に高波のように血圧が高まることを示しています。瞬間的に高まるだけでなく、高い波のように防波堤を乗り越えていくことから堤防の先に被害を与えるというイメージによる命名です。血圧の高波によって与えられる影響は血管の損傷です。
一時的なものなら、それほど身体に大きな影響はないと思われがちです。階段を昇ったり、少し駆けたりしても血圧が一時的に急上昇するのはよくあることで、すぐに元に戻るのが一般的です。しかし、高齢で血管が老化していたり、冬場の寒暖差(部屋と廊下、屋内と屋外)や強いストレスを感じているときにはドンと急上昇した後に血圧が戻りにくくなることもあり、急上昇したことで血管が切れることもあります。
高齢というキーワードが出てきましたが、自動車でいうと新車と旧車にたとえられます。新車はエンジンを吹かすだけ吹かして急発進させてもエンジンが壊れることがないのに、旧車で、しかも長年乗り続けてきていると急発進させたらエンジンが壊れてしまうこともあります。若いということは調整能力が高くて、血管が弱っていたとしても血管を拡張させて血圧上昇に対応することができる状態であっても、年齢を重ねると対応しにくくなり、ある時に限界を超えるとプッツンと切れてしまうことにもなるのです。
血圧サージについて、講演会などで質問を受ける機会が多くなってきたことから取り上げていますが、血圧サージは一時的なことなので、毎日、決まったタイミングで血圧を測定していても気づきにくいものです。血圧サージの原因としては、朝の急な起床、喫煙、激しい寒暖差、ストレスがあげられています。これは血圧を上げることとして普段から注意しなければならないことです。これらは急性的な原因です。自分で取り除くことが可能な原因となっています。
それに対して慢性的な原因の糖尿病、塩分の摂りすぎ、肥満、老齢化となると、これは急になんとかなることではありません。慢性的な原因がある人は急性的な原因を減らすことから、まずは始めることです。
そういった対策をしても、年齢を重ねると、自然に進んだ動脈硬化によって血圧が上昇しやすくなります。今さらですが用語説明をすると「心臓から送り出された圧力によって動脈にかかる圧力」のことです。圧力がかかっても血管の弾力性が高いと圧力を柔軟に受け止めるので、血管壁への圧力は弱められます。そのために、動脈がダメージを受けても動脈硬化になるのが抑えられるわけです。
ところが高齢になると、病的な動脈硬化まで進まなくても、動脈硬化は間違いなく起こっています。「動脈硬化の最大のリスクは加齢」と言う専門医は多く、“抗加齢”が可能なら、それが一番の動脈硬化対策になるはずです。しかし、そうはいかないのが現実で、血圧サージを起こさないように日々の対策を心がけるしかないのです。
血圧サージが起こっているのかどうかは、24時間血圧計を装着して1日を過ごすことでわかります。これで計測すると、実は通勤・通学の電車の中で混雑を我慢していること、嫌だと思う人の前にいることの他に、ストレス解消のつもりでしていることが案外と血圧を上昇させていたことがわかるようになります。