高齢者が肉を食べても動脈硬化リスクが低い理由

「高齢者は脂肪を多く摂ってはいけない」というのは昔から言われてきたことですが、今では「高齢者は肉を食べろ」と、逆のことと思われるようなことが言われるようになりました。肉に脂肪はつきものですが、脂身を削り取っているから大丈夫だという人がいる反面、肉には見えない脂肪が含まれているという人もいます。脂身は見える脂肪なので脂肪を取り除いて減らすことは簡単にできます。ところが、赤身の中にも脂肪は含まれていて、この脂肪は、どれくらい多いのかが見えないので、安心して食べていると、いつの間にか多くの脂肪を摂っていたということになりかねないのです。
脂肪が多い食事をすると脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症)の原因になるだけでなく、糖尿病の原因にもなります。日本人は脂肪の摂取が糖尿病の引き金になりやすいことが指摘されています。というのは、膵臓から分泌されるホルモンのインスリンは、血糖値が上昇したときだけでなく、中性脂肪値が上昇したときにも多く分泌されるからです。インスリンの分泌量が増えると、膵臓に負担がかかり、膵臓の負担が限界に達すると膵臓の働きが急に低下して、インスリンが分泌されにくくなります。これが糖尿病の始まりです。
インスリンには肝臓で脂肪酸を合成する働き、脂肪酸から中性脂肪を合成する働きもあります。そして、中性脂肪を脂肪細胞の中に蓄積するのもインスリンの役割です。脂肪が多い食事をするとインスリンが多く必要になり、膵臓に負担がかかります。歴史的に肉食が多く、脂肪を多く摂ってきた欧米人などは脂肪を蓄えるためにインスリンが多く必要だったために膵臓からのインスリン量が多く、少しくらいブドウ糖や中性脂肪が多くなっても膵臓が疲弊するようなことはありません。それに対して日本人は歴史的にブドウ糖も中性脂肪も多くは摂ってこなかったために、膵臓が疲弊しやすく、脂肪を多く摂ったことで糖尿病になりやすいという弱点を抱えています。
それなのに高齢者に肉をすすめるのは、血管を丈夫にして動脈硬化を防ぐためにはタンパク質が必要で、それを多く摂るためには肉を食べたほうがよいということがあるからです。しかも、高齢者はコレステロールを多く摂っても、これが動脈硬化の原因になりにくいことがあげられています。これについては別の機会にメカニズムを含めて紹介します。