高齢者はボケなのかトボケているのか

ボケ(呆け)というのは使いたくない言葉ですが、今回のテーマが「ボケとトボケ」なので、あえて使っています。ボケはよくない表現なので痴呆症という言葉が使われましたが、これもよくないということで認知症が広く使われています。認知症と物忘れは似たような状態と感じる人もいますが、物忘れは忘れたことを覚えています。それで思い出そうとします。これに対して認知症は忘れたことを忘れているので、頑張って思い出そうとはしません。この“頑張って”という行動があるかないかが重要で、頑張る気力がないと、そのまま思い出せなくなり、結果として忘れたことを忘れるのと同様の状態にもなります。
高齢になると思い出すために頑張ることは面倒なことで、忘れたまま過ごすことは楽といえば楽です。それもあって「年を取ると思い出せなくなって」と言って、少しでも面倒なことはパスしようとする人がいます。こうなると外から見ている分にはボケなのかトボケ(惚け)なのか見分けがつかなくなります。
最新の統計では、認知症患者は462万人、軽度認知障害患者は400万人と推定されています。合わせた862万人は65歳以上の4人に1人の割合となっています。2025年には認知症患者は700万人、軽度認知障害は600万人を超えると推定されています。3人に1人以上が認知機能に問題があるようになるということです。
医療機関において軽度認知障害と診断されても治療薬はなく、認知症のリスクを高める生活習慣病の予防・改善のための治療などに加えて、食事の改善、適度な運動、休養が指導されるだけとなっています。こうした指導によって軽度認知障害からの改善が見られる人は約30%で、約20%が軽度認知障害のままで維持され、1年で10〜15%が認知症になり、5年で約50%が認知症に進行しています。
ここまで認知機能の低下が進むと、高齢者を対象にしたセミナーで一生懸命に聞いているようでも、頷いてわかっているという反応を示しても、半分は理解していないと思って進めなければならなくなります。
軽度認知障害は本人はボケていないと思っていて、トボケているくらいのつもりでいても、認知症に向かっている段階であるのは違いがありません。ここでストップがかけられれば現状維持か、場合によっては“健脳”状態に戻ることもできます。軽度認知障害と診断されても的確な治療薬はないので、バランスの取れた栄養、適度な運動、充分な休養という健康づくりに、あまりに当たり前のことを指導されるだけです。それでも30%は元に戻っているということは、忘れたことを思い出そうと頑張るという気力が大切だということです。トボケているうちにボケにならないように、まだその年齢になっていない人にも今から心がけてほしいことです。