中性脂肪の数値が正常範囲を超えても、すぐに身体に悪影響が出るわけではありません。しかし、血液中の中性脂肪が増加した状態が長く続くと、動脈硬化のリスクが高まります。血液中の中性脂肪が増えると、HDL(高比重リポ蛋白)が減り、その結果としてLDL(低比重リポ蛋白)が増えて、コレステロールが血管壁にたまりやすくなります。
動脈硬化になると血管の内壁が徐々に厚くなり、硬くなって弾力性が弱まり、血管の内側が狭くなっていきます。また、血小板の凝集が促進され、血栓ができやすくなります。そして、血管の内径が狭くなったところに血栓ができると血管が詰まりやすくなります。中性脂肪値が高いうえに、LDLコレステロール値が高く、高血圧、糖尿病などの危険因子が重なると、さらに動脈硬化のリスクが増大します。
高中性脂肪血症のうち治療が必要となるのは、血液中の中性脂肪が150mg/dl以上となったときですが、中性脂肪は男性の場合、加齢に伴って増加する傾向があり、中年太りの原因となっています。女性は、男性に比べて中性脂肪値が低い傾向にあるものの、閉経後にはLDLコレステロール値が高くなり、中性脂肪値も高くなるために動脈硬化の危険性も高まっていきます。
中性脂肪値と虚血性心疾患の死亡率の関係性を日本人とアメリカ人で比較すると、100mg/dlの危険度を基準の1としたとき、日本人では140mg/dlで2倍、180mg/dlで3倍、250mg/dlで5倍となります。アメリカ人は250mg/dlでは1.7倍と日本人のほうが中性脂肪値が上昇したときの虚血性心疾患の危険度が非常に高くなっています。
虚血性心疾患は、心臓の筋肉(心筋)に血液を送る冠状動脈が狭くなったり、塞がるなどして心筋に酸素が充分に送られなくなって酸素不足になる状態をいいます。冠状動脈が狭くなって一時的に酸素不足になるのが狭心症、冠状動脈が完全に詰まるのが心筋梗塞です。冠状動脈は3本あるので、1本が詰まっても心臓が止まることはありません。
虚血性心疾患による死亡者の約85%は65歳以上となっています。75歳未満では男性に多くみられ、75歳以上では男女の差は小さくなり、85歳以上ではほぼ同じ発症率になります。
日本人の食生活は歴史的に脂肪が少なかったために、脂肪による健康被害を妨げる能力が低いとされます。脂肪の摂取量が歴史的に多かった欧米人は、脂肪をエネルギー化する能力が高く、余分となった脂肪を脂肪細胞の中に蓄積していく能力も高くなっています。つまり、脂肪を多く蓄えて太ることができるわけです。
日本人は欧米人のようには太ることができないので、食事で摂る脂肪や肝臓で合成される脂肪が多くなると、血液中の中性脂肪が多くなる体質であり、動脈硬化になる危険性が高いということがいえます。