「情けをかけることは、その人のためにならない」という意味で“情けは人のためならず”を使っている人がいます。「その人のためにはならないので、情けはかけるべきではない」という考えで、厳しく接するという指導者がいます。指導者の中には、学習から健康づくりまで、いろいろとあって、今のような甘やかされた生活に慣れた人には、あえて厳しく接することがよい、というようなリーダー論まで登場しています。
「その人のためにはならない」というところは合っているのですが、本来の意味は「その人のためではなくて、自分のため」です。「人に対して情けをかけておけば、巡り巡って自分にとってよいことがある」というのが本来の意味であるということを理解していないと、リーダー論だけでなくて普段の会話も、うまく通わなくなることにもなります。
“情けは人のためならず”が間違えて使われるのは“人”という文字を使っているからで、本来の意味でいうなら“他人”と書いて“ひと”と読むべきです。他人のためにならないということは、自分のためになるという意味が伝わりやすいかと思います。
“人”と書いたら、猿や犬や雉ではない人のこと、桃太郎と家来の話と間違われてしまいます。そうではあるのですが、なぜか昔から“情け”に続くのは“人のためならず”となって、“他人”は使われていません。
文化庁の「国語に関する世論調査」によると、本来の意味で使っている人と、誤用している人の割合は、ほぼ一緒で、年齢が上がるほど本来の意味で使っている人が多いといっても、それほどの差ではありません。このままでいくと、誤用する人のほうが多くなるのは、そう遠くはないということです。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)