あくまでも噂話123「話は上手いが中身がない」

大手出版社でゴーストライターをやっていたときのこと、「話していることを、そのまま文章にするだけでよい簡単な仕事」と言われて引き受けました。普通なら、おいしい話には注意しなければいけないとブレーキがかかるところですが、そのときは時間が空いていることもあって安請け合いしてしまいました。

“安請け合い”と書いたのも“してしまいました”と書いたのも、おいしい話ではなかったということの前振りの表現ですが、ゴーストライターであることを隠して、ゴーストライターを務めるという奇妙な体験をすることになりました。

出版のためにインタビューをする相手は話し方教室の先生で、話し上手で、感動させる話をしてくれるという評判でした。流暢な話し方で、心に響くキーワードの連続で、確かに文章にするのは難しくはありませんでした。

ところが、話したことを、そのまま文章にしていく作業の途中で違和感を感じました。言葉の流れとしてはリズミカルでよかったのですが、実際に出来上がった文章を読んでみると、何を言いたいのかわからないという状態でした。

話を聞いているときには、よくわかるような感じがしていたものの、それを文字にしてみると、まったく違った印象になっています。仕事として引き受けたからは、読みやすくて、理解しやすくて、感動もするような文章として仕上げたいというのは物書きとしての性(さが)です。

しかし、編集者からの指示は、話している、そのままの言葉を文字にして書籍にすることでした。それでは書籍を買ってくれた人に申し訳ないようなものになってしまうので、著者と交渉をしてくれるように編集者に頼みました。

その交渉では、著者(実際には書かないわけですが)が、自分の話していることに自信があるので、受け入れられないということで、編集者が文字化して原稿を作成するということになりました。

これでお役御免かと思っていたら、編集者が原稿を作成したことにして、実際には私が原稿化するとの提案がありました。いわば“ゴーストライターのゴーストライター”で、著者の話したままではなくて、言いたいことを抜き出して、膨らませ、読みやすい文章にして、やっと世に出すことができました。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)