厚生労働省が「トータル・ヘルスプロモーション・プラン」を打ち出し、多くの企業が「THP運動」に取り組んだ時代があります。THPは「Total Health Promotion」の略で、心と体の健康づくり運動を意味しています。当時の厚生省が策定した「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づいた労働者の心身両面にわたる健康づくりのための取り組みです。
この指針は労働安全衛生法の改正(1998年:昭和63年)によって設けられたもので、労働安全衛生法の69条と70条、労働大臣が公表した「健康づくり指針」に沿って、健康測定の結果に基づいた栄養指導、運動指導、保健指導、心理相談などを行うために始まったのがTHP運動です。
私(小林正人)が当時所属していたHDS(病院栄養管理)研究所の所長が国立病院出身の管理栄養士で、日本栄養士会の理事長を務めていたこともあって、THP運動の栄養指導を担当する産業栄養指導者の団体・産業栄養指導者会を設立しました。
他のヘルスケアトレーナー会、産業保健指導者会、心理相談員会と連携して、それぞれが専門分野で指導するだけでなく、THP運動に関わる他の業種についても学び、それぞれの働く人の状態に合わせて健康づくりの手法を組み合わせていくという画期的な取り組みを始めました。
現在の厚生労働省が発足したのは2001年(平成13年)のことで、それ以前の統合前にTHP運動を厚生省と労働省が垣根を越えて実施する珍しい取り組みでした。
2005年(平成17年)に8つの医学系学会(日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本肥満学会、日本循環器学会、日本腎臓病学会、日本血栓止血学会、日本内科学会))が合同して、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準を策定して、内臓脂肪を減らすことを健康づくりの根本として掲げたことによって、THP運動の活動に拍車がかかりました。
THP運動は現在も続けられているものの、社会や労働環境に変化に伴い、見直しが行われています。しかし、メタボリックシンドローム対策が一時期の盛り上がりが見られなくなったのと呼応するように、THP運動も一時期の勢いがなく、企業の中には過去のもの、懐かしい用語と認識するところさえ表れています。
健康づくりをトータルで捉え、取り組んでいくという活動は、個人対応が必要な時代には重要な考え方であり、それを再燃させるためには新たな取り組みが必要になると認識しています。その新たな取り組みが、「個人に適した健康デザイン」です。
〔健康ジャーナリスト/日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕