厚生労働省によって今も進められているTHP運動は、労働者の心身の健康をトータルとして捉えて、それぞれの方に適した健康づくりの方法を提供する活動です。
THP(トータル・ヘルス・プロモーション)運動の裏付けとなっている労働安全衛生法では第69条の第1項で「労働者の健康保持増進を図るために必要な措置を継続的かつ計画的に実施することが事業者の努力義務として定められている」ことが明記されています。
“努力義務”ではあっても、第2項には「労働者は事業者が講じる措置を利用して健康保持増進に努めること」とされていて、働く人が健康づくりの機会を求めている場合には、それに応じた対応をすることが強く示されているのです。
THP運動は4つの活動分野である栄養指導(産業栄養指導者)、運動指導(ヘルスケアトレーナー)、保健指導(産業保健指導者)、心理指導(心理相談員会)が、それぞれ専門性を活かすことが基本となるのですが、それと同時に、それぞれを理解するための連携して学び、働く人の健康づくりのために最も相応しい方法を提供することが重要とされています。
心理相談員は、メンタルヘルスの専門家で、THP運動が始まった当時は自殺防止のための相談業務が主でしたが、今では健康づくりのベースに役割が広がってきています。メンタル面で指導が必要な人に、一般的に実施されている食事指導、運動指導をすることは、苦痛を与えることにもなりかねないとの考え方があります。
いわゆる“健康な人”を対象とした栄養と運動の手法を、そのまま実施することには問題があり、それを仕向けるようなことがあってはいけません。たとえ、それにエビデンス(科学的根拠)があったとしても、心理面で対応しなければならない人に対しては、押し付けになるような指導は避けるべきだということです。
これは歯の状態がよくない人に対して、健康になるためだからといって、もっと噛むように、しっかりと噛める食品を食べようと、根拠なしに指導するようなことと同じではないかと考えられています。
こういった面まで考えて、それぞれの人に適した健康デザインをしていかないと、実践も継続もしにくく、期待するような成果も得られないという結果にもなりかねないということです。
〔健康ジャーナリスト/日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕