口腔機能の低下によるオーラルフレイルは、消化・吸収に影響を与えるだけでなく、身体のフレイル(虚弱)にもつながりやすいことが指摘されています。
オーラルフレイルの考えが広まってきてから、オーラルフレイルの状態の人と口腔機能の健康状態が保たれている人との差について多くの調査が行われています。オーラルフレイルの状態にある人は2年以内に身体的なフレイル(虚弱)を発症する確率が2.4倍、サルコペニアは2.1倍、要介護認定は2.4倍、そして4年以内に死亡するリスクは約2倍との報告もあります。
高齢者になっても自分の歯を多く残すことによって健康で長生きすることを目指した「802運動」は、自分の歯で噛んで食べることによって栄養の吸収を高めるだけでなく、外出して食事をするなど行動的に生活をすることによって健康寿命を延伸させることも意図しています。
健康寿命の延伸のためには、身体の機能の維持とともに認知機能の維持も重要であり、厚生労働省と日本歯科医師会が平成元年(1989年)から展開している「8020運動」は、80歳で20本以上の歯を残すことによる健康づくりを目指しているだけではありません。
32本の歯のうち、できるだけ多くの歯を残すことによって、なんでも食べられるようにすることによる健康効果が第一の目標ですが、好きなものを食べることができる状態は、出歩いて食事をする機会が増え、食事の機会は多くの人との交流にもつながります。
このことが脳の機能を高め、精神衛生の向上にも寄与します。こういった歯と健康の関連性を強く認識して、東京大学高齢社会総合研究機構をはじめとした多くの関係者の協力によって、健康長寿を実現するために掲げられたのがオーラルフレイルです。
〔健康ジャーナリスト/日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕