中国では漢方薬の成分を抽出・生成して医薬品にまでしている例があります。医薬品というと自然の成分を研究して、その成分を化学合成するのが一般的ですが、それを漢方薬の成分そのものを使って医薬品レベルにまで高めています。この医薬品というのは病院で使用される医薬品や薬局で薬剤師から購入できる医薬品を指しています。
医薬品になっているのは従来から使われてきた漢方薬の素材だけではなく、最新の研究によって漢方薬の有効性が凝縮されたものも使われています。その代表的なものの一つが、天麻密環菌片(オニノヤガラ共生ナラタケ菌糸体)です。
天麻はオニノヤガラ(鬼の矢柄)を指します。オニノヤガラはラン科の多年草で、光合成ができないことからナラタケ(楢茸)に寄生しています。ナラタケはオニノヤガラの塊茎に寄生しています。お互いに寄生して、栄養成分をやり取りしている共生関係で、オニノヤガラは滋養豊富で、塊茎(土の中で大きく丸くなった茎で、ジャガイモでは食用部分)を乾燥させたものが漢方素材の天麻となっています。漢方薬(生薬)としての天麻は、鎮痙剤、強壮剤のほか麻痺、神経衰弱、頭痛、眩暈の改善に用いられています。
ナラタケはハラタケ目シメジ科ナラタケ属に分類される食菌で、日本でも食用キノコとして食べられています。ナラタケはオニノヤガラに栄養成分が奪われているために、キノコの状態になったものは漢方薬としては使われてきませんでした。しかし、菌糸体を用いる技術が確立されてから臨床研究が始まり、新たな漢方素材となりました。菌糸体はキノコでは根のように張り巡らされた糸状の菌の集合体で、菌糸体から生まれる子実体が食用となっています。つまり菌糸体が親で、子実体が子の関係になります。ナラタケは子実体となった後に、オニノヤガラに栄養成分を吸収されることになりますが、その前のオニノヤガラに寄生している菌糸体は子実体を作る前の栄養が最も豊富な状態であり、そのオニノヤガラ共生ナラタケ菌糸体が漢方の医薬品成分として使われているわけです。
オニノヤガラ共生ナラタケ菌糸体は中国の第二類医薬品の原材料ですが、それと同じものが健康食品として日本に輸入され、健康食品として販売することが許可されています。中国には数多くの健康食品があり、有効性だけでなく安全性も千差万別です。最も安全なのは医薬品の工場で作られたものですが、その原材料を日本に輸入しても加工している工場が安全でなければ仕方がありません。オニノヤガラ共生ナラタケ菌糸体は国内のGMP(医薬品適正製造基準)工場で製造されているので、これも安全性を確認するための重要なポイントとなっています。
ところで、オニノヤガラ共生ナラタケ菌糸体は中国では何の医薬品なのかというと、軽度認知障害の治療薬です。日本では認知症のための医薬品はあるものの、その予備群である軽度認知障害の医薬品はないことから、オニノヤガラ共生ナラタケ菌糸体が注目されています。