一番の不快な刺激は嗅覚で感じる

人間の五感の「視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚」のうち最も多くの情報を得ているのは視覚で、五感のうち80%以上を占めているといいます。同じものを味わっても、視覚を遮られると味覚が狂ってきます。目隠しをしてスイカを食べるとウリ(瓜)にしか感じないという人も少なくありません。視覚の記憶によって味覚を補って、スイカはスイカの味を感じることになります。
味覚は、「蓼食う虫も好き好き」という諺があるように、一般には、とても美味しくは感じないものを美味しく感じている人もいます。リラックス効果があるといわれるクラシック音楽でも、聴き慣れていない人には退屈、それどころか不快でしかないということもあります。色は、カラーセラピーの世界では興奮系、抑制系の色があって、興奮系の色で落ち着く人はいないということで色彩療法は成り立っています。ところが、抑制系の色であっても落ち着かないという人もいます。触覚も心地よい感触であるはずの手触りでも、過去によくない記憶がある人にとっては、心地よくないどころか不快に感じることもあります。このような感覚も過去の経験や記憶が大きく影響しています。
ところが、嗅覚、つまり匂いの感覚だけは、心地よい“匂い”は誰もが心地よく、不快な“臭い”は不快でしかありません。これは脳の機能と関係しています。
五感のうち「視覚、聴覚、味覚、触覚」はセンサーでキャッチしたときに、脳の人間的な感覚を司っている新皮質で過去の記憶を照らし合わせて、それが快感なのか不快感なのかの判断を下して、身体に影響を与えます。それに対して嗅覚だけは快感を与える“匂い”は誰もが心地よいと感じ、不快感を感じる“臭い”が誰もが避けたい、逃げ出したいという感情が起こり、そう感じた後には正常な状態ではいられなくなります。過去の記憶で不快な臭いに一種の“報酬”のような感情があったとしても、その臭いを嗅ぎ続けることで快感が高まっていくことはありません。
その心理状態、精神状態を上手に活用したのがアロマセラピーで、抑制系の匂いを嗅げば誰もがリラックスができるし、興奮系の匂いを嗅げば誰もが神経が高ぶり、そして不快な臭いを嗅げば誰もが逃げ出したい気持ち、集中できない状態となります。心地よい匂いのほうは問題がないのですが、不快な臭いがして、それが生活環境で代えにくいこととなると、これは苦痛でしかありません。この状態を変えるには、よいアロマを漂わせるとか、空気清浄機を使うということでは追いつきません。
嗅覚を刺激する臭い、それも不快でしかない臭いは、不快と感じると、その臭いから逃れたい気持ちが高まり、ほんの少しだけ臭いがするだけでも、精神的には強い苦痛となっていきます。根本的な解決は、その場から逃げ出すしかありません。
これは人間的な新皮質ではなく、動物的な旧皮質でもなく、“爬虫類の脳”と呼ばれる生命維持のための中枢部分の働きに関係しています。臭いは生命の危機を感じさせることとなっています。
このような状態にある人は、我慢するべきではなく、逃げ出して、新たな場所でリセットすることが必要となります。臭いは、その臭いを嗅ぎ慣れている人は、だんだんと感覚が鈍ってきて、強く感じなくなります。これは、その場から逃げ出すことができない人が生き延びるために自然と身につけた能力といえます。新たな生活場所で臭いに悩まされている人は、今の環境を続けて体調を崩すことがないように、精神的に問題が起こる前に現状を何とかするべきではないでしょうか。