「糖尿病を病気にしない」ということを前回、書いたところ、それを読んだ新聞記者から問い合わせがありました。糖尿病は“病”という文字がついていて、診断基準を超えた血糖値は“糖尿病域”と呼ばれるのだから病気でよいのではないか、ということを言われました。
糖尿病は生活習慣病の一つとなっているので、病気で間違いないのでは、という感覚です。糖尿病以外の生活習慣病は高血圧症、脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症)、高尿酸血症などと“病”という文字はついていません。数値が高いということだけで病気でないというなら「高血糖症」という名前でもよいわけです。しかし、糖尿病という名前がつけられています。
そういった名前の問題で問答をしていても仕方がないので、病気の定義について紹介しました。WHO(国際保健機関)は病気を「自立できない状態」と定義しています。これを受けて、我が国の厚生労働省も自立できなくなった状態を病気として、自立できる間は病気ではない、つまり「自立できる間は“健康”」としています。
血糖値が診断基準を超えて糖尿病と診断されても、合併症さえ出なければ自立して生活することができます。糖尿病の三大合併症の腎症になると人工透析が必要になり、網膜症では失明もあり、神経障害では足の切断もありますが、軽度の状態では自立できない、他人の助けがなければ生活ができないという状態ではありません。
糖尿病は血管が傷んでいく疾患で、高血圧症も脂質異常症も血管が傷んでいって、動脈硬化が起こります。動脈硬化の段階でも自立ができるので、まだ病気ではなく、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる状態になって自立できなくなると、これは病気の段階です。とはいっても、糖尿病な病気ではないからといって放置しておくと、つまり食事の改善にも運動にも取り組まないまま過ごしていると、徐々に血管の老化が進み、三大合併症が出たときには動脈硬化が大きく進んでいて、いきなり心筋梗塞や脳梗塞を起こして亡くなるという突然死の状態にもなりかねません。
糖尿病は病気でないとしても、病気のリスクが極めて高いことを意識して、できるところから改善に取り組むことがなければ、病気として扱ったほうがよいという考えも出てきます。