転倒による骨折は一般的な医療問題で、移動能力の低下、それに伴う医療費の増加、予後と関連しています。2017年には世界で60万人以上が転倒をきっかけに死亡したと報告されていて、転倒を未然に予防することは喫緊の課題と考えられます。
転倒の一般的なリスク因子には、高齢、神経筋疾患、鎮痛薬の使用、下肢筋力低下などがあげられますが、さらに肝硬変患者ではサルコペニア、フレイル、肝性脳症も転倒につながることがあります。
肝性脳症の従来の検査法として、さまざまな診断ツールが用いられていて、ANT(アニマルネーミングテスト)は1分間に回答できる動物の数によって評価する神経機能検査で、検査に必要な時間が短いこと、検査機器が必要ないことから欧州肝臓学会で推奨されている唯一の肝性脳症の簡易検査法となっています。
しかし、日本ではANTの検討は不十分で、ANTの結果と転倒、転倒による骨折との関連については検討されていませんでした。
岐阜大学大学院医学系研究科消化器内科学分野のグループは、肝硬変患者における転倒、転倒に伴う骨折の実態とANTで評価した神経機能との関連を明らかにしました。
この研究では、肝硬変患者94名を対象としていますが、年齢中央値72歳の肝硬変患者(30%が女性)において19%が1年間以内に転倒しており、5%が転倒に伴う骨折をしていました。
転倒あるいは骨折既往を有する肝硬変患者のANTの結果は、転倒や骨折既往のない患者と比較して有意に数が少ないことが明らかになりました。
この研究の成果から、ANTを用いて肝硬変患者の転倒と骨折のリスクを把握することで、将来の転倒と骨折の予防と健康寿命の伸長に起用することが期待されます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕