肥満は2型糖尿病、心血管疾患、がんなど、さまざまな病気のリスクを高めることが知られていますが、数少ない例外の一つが肺がんで、さまざまな民族集団の観察研究によって肥満指数(BMI)は肺がんリスクと反比例していることが報告されています。
しかし、観察研究では本当に肺がんは逆相関の因果関係にあるのか、あるいは肺がんの主要な危険因子である喫煙の交絡によって、見かけ上関連があるような結果が得られているだけなのかがはっきりせず、議論の余地が残っていました。
そのような状況の中、米国、欧州、アジアの12コホート研究を統合解析した2019年の研究により、追跡開始から5年間に診断された症例を除外した後、喫煙者と非喫煙者の両方でBMIが高いことが肺がんのリスク減少と関連していることが示されました。
一方、白人よりも肺がんの有病率が低いアジア人ではBMIと肺がんの関連を調査した研究は少なく、日本人を対象とした研究ではBMIと肺がんの関連について決定的なものは得られていませんでした。
また、日本人を対象とした大規模コホートデザインの先行研究では、負の関連が示されたものの、喫煙状況による層別解析は行われていませんでした。
国立がん研究センターのがん対策研究所・予防関連プロジェクトは、BMIと肺がんリスクとの関連をよりよく理解するために、日本の10の前向きコホート研究から肺がん6454症例を含む44万4143名を対象として、性別、喫煙状況、組織型により層別化した統合解析を行い、その結果を発表しました。
研究では、体重(kg)を身長(m)の2乗で割った肥満指数(BMI)(kg/㎡)を使って、6グループ(18.5未満、18.5〜20.9、21.0〜22.9、23.0〜24.9、25.0〜29.9、30.0以上)に分け、21.0〜22.9(kg/㎡)を基準として、その他のグループの肺がん罹患リスクを調べました。
全体としてBMIと肺がんリスクの間に負の関連が観察され、低体重(BMI<18.5)は肺がんリスク増加、過体重(BMI25.0〜29.9)、肥満(BMI≧30)はリスク減少と関連しているという結果が得られました。
また、BMIが5kg/㎡増加するごとに肺がんリスクが21%低下し、性別で層別化すると、負の関連は男女ともに同様の傾向であったものの、女性における低体重の肺がんリスク増加は統計学的には有意ではありませんでした。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕