健康情報75 胎生期・発達期の栄養環境と唾液腺インクレチンの関連性

妊娠・授乳期の偏った栄養摂取状態は、糖尿病をはじめとして母体の、その後の健康状態に深刻な悪影響を及ぼすだけでなく、新生児にとっても生涯にわたって様々な健康被害が生じることがわかってきました。

胎生期から発達期にかけての健康・栄養状態が、成人期以降の糖尿病や心血管疾患をはじめとした各種疾患リスクに関連することが明らかにされています。

母体の低栄養状態が引き起こす次世代の健康被害に関する疫学調査から展開されてきたROHaD研究では、近年は世界的な過体重や肥満人口の急激な増加により、栄養過多に伴う新生児の長期的な各種疾患発症リスクに関する知見が集積されつつあります。

食物摂取に伴い消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンであるインクレチンにはGIPとGLP-1の2つが存在しています。GIPは十二指腸のK細胞、GLP-1は上部小腸のL細胞で、それぞれ産生・分泌され、血中に移行します。

先行研究によって唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)においてGIPとGLP-1の双方が産生・分泌されることが報告されていますが、唾液腺におけるインクレチンの役割は、まだよく知られていませんでした。

このような背景から、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科咬合機能矯正学分野の研究グループは、Wistarラットを用いた動物実験系において、妊娠・授乳期の母獣、離乳後の出生仔に高脂肪食を継続させた際に、顎下腺インクレチン発現の影響を、組織・生化学的手法によって検討しました。

高脂肪食摂取母体由来の出生仔(雄、10週齢)では顎下腺GLP-1発現が有意に増加し、高脂肪食摂取母体由来の出生仔(雄、3週齢)では顎下腺GIP発現が有意に低下していることが明らかにされました。

妊娠・授乳期に通常食または高脂肪食を摂取させた母獣から出生した仔(雌雄)に離乳後も通常食または高脂肪食を摂取させて、経時的に体重、食餌量、カロリー摂取量、空腹時血糖を測定したところ、高脂肪食を摂取させた出生仔では雌雄ともに食餌量は減少したものの、体重、カロリー摂取量は有意に増加していました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕