私たちは普段、何気なく言葉や動作などを用いて他者とインタラクションをしていますが、相手によって接しやすい(あるいは、しにくい)と感じた経験は誰しもあります。これまでの研究から、2者間のインタラクション中は、脳活動が同期することが報告されていました。特に、恋人ペアや親子など、社会的つながりの強いペア間で高い脳波同期が観測されることが知られています。
しかし、社会神経科学の分野においては、初対面や知り合いペアなど社会的つながりが弱い(あるいは、ほとんどない)ペアについては、これまであまり着目されてきませんでした。一方で、社会学の分野においては、弱いつながり同士のほうが強いつながり同士より、伝達される情報が多様であり、新たなアイディアを生むイノベーションにつながることが言われており、これは「弱いつながりの強さ」理論と呼ばれています。
日常生活では、見知らぬ人や社会的つながりの弱い知人など、親しい社会集団以外と交流する機会のほうがより多く、このような人的交流が幸福度に寄与するため、社会的つながりが弱いペアの脳波同期に着目することは重要です。
早稲田大学人間科学学術院、人間総合研究センターの研究グループは、言葉を介さない協調性課題をする2者間の脳波の同期性に着目し、初対面ペアのほうが知り合いペアより、お互いの脳波が密に同期することを明らかにしました。
この結果は、従来の「社会的なつながりが強いほどお互いの脳活動が同期する」といった線形的な関係である考え方から、協力課題をしているときにおいては、「社会的つながりが低いとき、あるいは高いときは2者の脳活動が同期し、社会的つながりが中程度のときは、2者の脳活動が低い」といった非線形的な関係である考え方に拡張された重要な発見です。
社会的つながりがほとんどないペアでは、お互い気を配りながら協力する(お互いのエンゲージメントが高い)可能性があるため、エンゲージメントが高いインタラクションを行うとき、2者間の脳波が同期する可能性が示唆されます。
この知見は、自閉症スペクトラム障害などのインタラクションを苦手とする新たなアプローチを提案できる可能性があります。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕