健康情報84 高齢者における握力低下とインスリン抵抗性の併存による糖尿病リスク

高齢者における糖尿病の増加は、加齢に伴う体脂肪量の増加や筋肉量の減少などの体組成の変化によるインスリン抵抗性と深く関連しています。

特に近年、問題視されている全身の筋肉が少ない上に肥満である「サルコペニア肥満」の状態になる人は、糖尿病だけでなく、高血圧や心疾患のリスクも高いことも報告されており、その実態の解明については世界的な関心が高まっています。

しかし、日本人を含む東アジア人は、肥満者が欧米より少ないため、サルコペニア肥満に該当する高齢者は比較的少ないと考えられています。

その一方で、東アジア人には肥満を伴わないインスリン抵抗性を有する集団が多く存在しており、高齢化により該当者が増えていくと推察される、サルコペニアかつインスリン抵抗性を有する人は糖尿病のリスクがより高い可能性があります。

そのため、早期介入を目指した大規模なスクリーニングのためには、測定方法が利用しやすく、かつ効果的であることが極めて重要となります。

順天堂大学大学院医学研究科の研究グループは、文京区在住の高齢者(65歳から84歳)1629名(男性687名、女性942名)を横断研究により、インスリン抵抗性が高く、握力が低い人は2型糖尿病のリスクが高いことを明らかにしました。

この研究では、東アジアの高齢者にも有用かつ簡便な新たな臨床指標の一案として、サルコペニア指標として握力、インスリン抵抗性指標としてTyG index(空腹時の中性脂肪値と血糖値から算出したインスリン抵抗性指標)を用いて、高齢者の2型糖尿病のリスクを検討しました。

サルコペニア疑いの定義は、握力が男性で28kg未満、女性で18kg未満とされました。インスリン抵抗性、サルコペニア疑いにも該当しない「正常群」、インスリン抵抗性のみ該当する「インスリン抵抗性群」、サルコペニア疑いのみ該当する「サルコペニア疑い群」、両方とも該当する「併存群」の4群類に分類して、2型糖尿病の有病率が比較されました。

その結果、正常、サルコペニア疑い、インスリン抵抗性、併存群の順で、糖尿病有病率が増加していることが明らかになりました。また、年齢、性別、BMI、脂質降下薬の使用、高血圧・心血管疾患といった基礎疾患を調整した結果、併存群では正常群と比べて、糖尿病のリスクが約5倍になることが示されました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕