環境政策において、幸福の向上を加味することの重要性が指摘され、その評価事例も増えてきています。これまでに、福島第一原子力発電所事故後の放射線被ばくに伴うがんと心理的苦痛のリスクの比較、事故後の故郷への帰還に伴うベネフットと放射線被ばくに伴うがんのリスクの比較が行われてきました。
しかし、環境中の発がん性化学物質への損失幸福余命使用の適用は、これまでされていませんでした。
環境中の発がん性化学物質への損失幸福余命の評価と医薬分野の他のリスクとの比較は、環境政策における優先順位づけや経年的なリスク低減効果の評価など、政策立案における判断材料が提供されます。
大阪大学感染症総合教育研究拠点、慶應義塾大学医療政策・管理学教室の研究グループは、損失幸福余命という尺度を用いて、日本の環境中の発がん性化学物質と心理的苦痛のリスクの大きさを比較しました。
損失幸福余命は、幸福余命(幸福な気分で過ごす余命の長さ)の一人あたりの平均的な短縮時間を指し、リスク事象に伴う幸福度の低下と死亡率の増加の両者を組み合わせて計算されるもので、質の異なる多様なリスク事象の大きさを比較することができます。
その結果、ラドン、ヒ素、2012年の大気中微小粒子状物質(PM2.5)、2020年のPM2.5、心理的苦痛の損失幸福余命は、それぞれ順に0.0064年、0.0026年、0.011年、0.00086年、0.97年と算出されました。
幸福余命に対する、これらの発がん性化学物質がもたらした損失の寄与率は、いずれも10万分の1を超過し、これらのリスクの低減は環境政策上重要であると考えられています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕