これまでのスポーツマネジメント研究においては、スポーツ観戦はスポーツファンの楽しさや活力を向上させる可能性があることを示唆していました。その主なメカニズムとしては、スポーツ観戦が他者とのつながりを形成し、その結果としてウェルビーイングが高まるという社会的アイデンティティの枠組みを用いた説明がほとんどでした。
しかし、これらの研究の多くは特定のサンプル集団(スポーツファン)を対象としており、スポーツに特別に熱狂しているわけではない一般の人々へのスポーツ観戦の効果は十分に検討されていませんでした。
また、ウェルビーイングの測定方法も主観的な指標(質問紙)に偏っているため、客観的な指標を用いた検証も必要だという課題がありました。
早稲田大学スポーツ科学学術院、人間科学学術院のグループは、「スポーツ観戦によってウェルビーイングは醸成されるか」を、さまざまな指標を活用して検証し、スポーツ観戦がウェルビーイングを高めるという強固な科学的エビデンスを示すことに成功したと発表しました。
社会科学的なアンケート指標を用いてウェルビーイングを測定すると、スポーツ観戦と有意な正の関連を示しました。
また、この現象のメカニズムとして神経生理学的指標を測定したところ、スポーツ観戦に伴ってウェルビーイングを担うと考えられる脳領域の機能・構造が変化する可能性を示しました。
研究1では、スポーツ庁が2万人の日本人を対象に、スポーツへの関心や実施状況の把握を目的として収集した大規模調査のデータ(スポーツ庁:2019)を分析しました。調査項目には、スタジアムやテレビ・インターネットでのスポーツ観戦行動や生活充実感(ウェルビーイングの一指標)などが含まれていました。
分析の結果、性別、年齢、収入を統制しても、「スタジアムやアリーナでの観戦ならびにテレビ・インターネットでの観戦は、どちらも生活充実感と有意な正の関連がある」ことが示されました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕