音楽は人類の歴史を通じて、さまざまな文化や世代に影響を与えてきました。特に音楽を聴くと、身体が動いたり、楽しさや悲しさ、懐古のような、さまざまな感情を引き起こすことがわかっています。
これまでの研究により、音楽が聴覚系のみならず、心拍変化や鳥肌などの身体感覚や内受容感覚を引き起こすことが示されてきました。視覚や聴覚などを介して外部刺激を知覚する外受容感覚に対して、内受容感覚は呼吸、心臓の鼓動、体温、胃腸の動きなどの生理的な状態に関する身体内部の感覚を指しています。
しかし、音楽の、どのような要素が心と身体に、どのように影響を与えているのかは完全には解明されていませんでした。
東京大学大学院情報理工学系研究科、広島大学脳・こころ・感性科学研究センターの研究グループは、音楽の和音列を聴き取ることによって誘発される心身の効果を明らかにしました。
この研究では、527人の参加者を対象としたボディマッピングテスト(刺激などによって感じた身体の位置を答えるテスト)を通じて、和音列の予測誤差および不確実性の時間的な「ゆらぎ」が、心臓や腹部といった特定の部位の身体感覚や感情反応を誘発することが観察されました。
さらに、心臓の感覚が美的鑑賞や快の感情と強く連動することが示されました。これらの結果は、音楽が私たちの心身に、どのように影響を及ぼしているかについての理解を深めるもので、その成果は心身への健康増進への応用が期待されています。
ボディマッピングテストでは、音楽コーパス(890曲)を用いて、和音列の予測誤差と不確実性の一般モデルを作成して、8種類の異なる予測誤差と不確実性の時間的な「ゆらぎ」を持った和音列刺激が作成されました。
8種類の和音列を、参加者はランダムな順序で聴き、聴取10秒以内に感じた体の部位を回答します。感情を判断するテストは2種類で、1つ目は33の分類から各和音進行によって引き起こされた感情を複数選び、強度の順位づけをします。2つ目は快・不快の覚醒度の強さです。
このようにして得た8種類の和音列聴取に対応する身体感覚と感情反応を分析した結果、音楽の和音列の不確実性と予測誤差の特定の「ゆらぎ」が心臓や腹部に局所的な身体感覚を引き起こすことがわかりました。
さらに、これらの感覚が美感や快の感情と強く関連していることがわかりました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕