認知症の人が意思決定能力を持っているうちに、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を始めることが国際的に推奨されています。ACPは将来の医学的治療とケアについて家族や医療従事者と話し合い、その人なりの目標や選好を見出すためのプロセスです。
東北大学大学院医学系研究科精神看護学分野、ライデン大学医学部の研究チームは、認知症ACPのガイドライン策定を目的として、2021年9月から2022年6月にかけて33か国107名の専門家から意見を集約するパネル調査を行いました。
その結果、専門家が今後最も重要と考える研究テーマとして、認知症に特化したACPの実践モデルの開発があげられました。また、政策課題としては、各国とも現行の医療介護サービスや法制度において、認知症の人の意思決定が想定されていないという問題が指摘されました。
認知症の人が排除されることがないように包摂的なACPに向けて、実践モデルの科学的根拠の積み重ねと施策展開の両輪が求められています。
2022年に発表された論文によれば、認知症の人は2019年時点で世界に5740万人いるとされ、2050年には1億5280万人に達する見込みです。認知症の特徴は物忘れにとどまらず、意思決定能力が次第に損なわれていく点にあります。
本人の意向がわからない中で、家族や従事者が医療やケアにまつわる難しい判断を迫られることは少なくありません。
欧州緩和ケア学会は23か国64名の専門家パネルによる意見を集約した「認知症緩和ケア白書」(2014年)で、意思決定能力の喪失という特徴に応じた認知症ケアのあり方を定義し、ケアの目標は生活の質を最大限に高めることにあるとしました。
世界的な科学的知見をメタ分析して認知症の予防やケアに関するガイドラインをまとめたランセット認知症予防、介入、ケアに関する国際委員会の報告書(2020年)でも同白書の定義が踏まえられています。
欧州緩和ケア学会が2017年に発表した定義では、ACPは「将来の医学的治療とケアにおける、その人なりの目標や選好を見出すため、家族や医療従事者と話し合い、その選好を記録しておき、後で見直す」プロセスです。
日本ではACPの愛称を「人生会議」と定め、人生会議とは「もしものときのために、自分が望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組み」としています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕