偽る脳力16 言い訳に時間を割かなくて済むように

新たなことを受け入れたくないという気持ちは、それぞれの専門分野でも見られることで、それは進取の気質がある研究者にも感じることがあります。医学者の中には、これまでの研究成果が否定されるような可能性があることを受け入れたくない気持ちもあって、例えばサプリメントの有効性を知っていても、それが広まると仕事に影響してくると考えて、否定する側に回ることもあります。

前に、患者に指導していることと、自分がやっていることに違いがある医師のことを例にして書きましたが、自分が有効性を感じて、積極的に使っていても否定している医師には何人も会いました。

私がエネルギー代謝科学の研究を続けていることを知り、エネルギー代謝を高める代謝促進成分があることを知り、紹介されて使っている研究者でも同じような反応をしたことがありました。

医薬品の使用に積極的でないことがわかると、業界の支援が受けにくくなるという理由を正直に話してくれた医師もいて、その方には「偽る脳力」の高さも感じたものです。

海外の情報をいち早く入手して、翻訳して国内に伝えていた医師に対して、医薬品の成分であった代謝促進成分が食品の成分として許可されることになったときに、その一つのL‐カルニチンの話をさせてもらい、厚生労働省に提出した研究資料を入手して、それを見てもらいました。

国内での発表に使われて研究成果が広まることを期待していたのですが、実際に発表されたのは「L‐カルニチンは効果がない」という全面的に否定する内容でした。欧米ではサプリメントとして使われても有効性が低かったというデータが示されていました。

それは初めからわかっていたことで、L‐カルニチンは脂肪酸をエネルギー化するときに欠かせない成分であるので、体内で必須アミノ酸から合成されています。それでは不足するので食品に含まれるL‐カルニチンが使われています。

L‐カルニチンは羊肉、牛肉に多く含まれているため、欧米人は食品から摂取する量が多く、体内に多く蓄積されていることから、サプリメントを摂取しても効果が出にくいのは当たり前のことです。

日本人は体内での合成量も少なく、肉からの摂取量も少ないので、サプリメントでL‐カルニチンを摂取したときの効果が高くなっています。しかも、L‐カルニチンの合成は日本人の場合はピークが早くて、20歳代前半からは年齢を重ねるほど低下していきます。

そのことは今では業界の常識となり、多くの人が知ることになっています。以前なら間違った情報であっても時期が過ぎれば消えていったかもしれませんが、今の時代はネット情報として掲載されたら消すことができません。その情報について、署名入りで発表した医師は言い訳に時間を取られることになっています。

そのようなことに「偽る脳力」を使うのではなく、もっと違った使い方があったのではないか、と感じて、その話を講演などでもさせてもらっています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕