脳の能力、つまり“脳力”の研究をするようになったのは臨床栄養の研究所の主任研究員となったのが始まりでしたが、具体的な脳力の鍛え方、自分の気持ちをコントロールしてよい方向に導いていく脳力について研究を始めたのは、スポーツ選手の体重コントロールのチームに参加したときからでした。
女子レスリングがオリンピックの正式種目になったのは、2004年のアテネ大会です。その前の2000年のシドニーオリンピックの後に、体重を無理なく無駄なく増減させるための実践研究が始まりました。オリンピックの階級は男女ともに7階級ですが、アテネ大会では4階級の実施となり、体重を大きく減らさなければならない選手、筋肉を増やしてもキレはそのままに体重を増やさなければならない選手の対応が求められました。
そのときには運動科学、スポーツ栄養、臨床栄養、心理学などの専門が召集され、私は臨床栄養の専門家の助手としての参加でした。そのときのオファーが、同じ体重、体脂肪の選手に対して、同じ食事量、同じ運動量で一方は筋肉量を変えずに体脂肪を減らし、もう一方は体脂肪を増やさずに筋肉量を増やすという厳しい内容でした。
その研究の中心となったのはエネルギー代謝の調整で、運動と食事のタイミングによる自律神経の変化を体脂肪の増減に活かす方法でした。空腹時に筋肉運動を行い、その後に食事をすることによって脂肪合成と体脂肪の蓄積を減らす方法、それとは逆に食後に運動をすることによって筋肉量を減らさずに体脂肪を増やすというものです。
この研究の中心であった国立大学の教授の研究に基づいた方法で、いかに自律神経を変化させるかがテーマとなり、夕食後の本来ならリラックスタイムに筋肉運動をさせるという無理なこともさせていました。
夕食時は自律神経の副交感神経の働きが盛んな時間帯で、副交感神経が消化、吸収、膵臓からのインスリン分泌を進める作用があります。インスリンは肝臓での脂肪合成を高める働きがあります。そのため、同じものを食べても夕食のタイミングは太るようになっているわけですが、そのときに筋肉運動をすると交感神経の働きが盛んになり、副交感神経が抑えられて、脂肪合成が減るという身体の仕組みがあります。
そのときに、無理をさせないで自律神経の働きを調整する方法として入浴やシャワーの温度を変えることを提案しました。自律神経は自分の意志では調整できない自律した神経ですが、温度変化で変化させられることは以前から知っていました。多くの専門家の中にあって初めはバカにされたものの、選手が知ることになり、実際にやってみたところ効果があったことから、これも研究対象となりました。
そこから研究と実践は「運動×食事」だけでなく、「運動×入浴」「食事×入浴」も加えた研究が始まり、このタイミングがメディカルダイエットの研究につながっていきました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕