偽る脳力36 情報伝達のメカニズム

上手に対応することも偽ることも時間がかかるようになるのは、年齢のせいだと考えられることが多いようです。確かに年齢を重ねると神経伝達の速度が遅くなっていきますが、これは神経伝達物質による情報伝達に時間がかかるようになるからです。

神経伝達は刺激を助けると一瞬にして伝わり、遠く離れたところ(指先から脳など)でも、すぐに反応が起こります。まるで電気が流れるように瞬時に伝わっていくわけですが、神経伝達物質が神経細胞の中を通っているわけではありません。

神経細胞は細胞体に突起(樹状突起と軸索)があります。樹状突起は情報を受け取る突起、軸索は情報を送り出す突起です。この突起を介して電気信号が隣の神経細胞に伝えられています。神経細胞は長い繊維状の細胞で、それぞれの神経細胞の間にはシナプスと呼ばれる隙間があります。その隙間を神経伝達物質が流れていきます。

神経細胞が受けた情報が神経細胞の端までくると、その情報が神経伝達物質の種類や数に変換されて、神経伝達物質を受けた神経細胞が情報に変換して、次々と伝えていきます。

神経伝達物質は20種類ほどあるとされています。促進に働くものと抑制に働くものがあり、前者はドーパミンやアドレナリン、後者はセロトニン、GABA(γ-アミノ酪酸)が代表的なものです。

高齢になると不足するのはセロトニンやGABAで、ドーパミンやアドレナリンは加齢によってもほとんど変化しません。セロトニンなどは抑制系であることから自律神経の副交感神経の働きを盛んにします。これとは逆にドーパミンやアドレナリン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、グルタミン酸などが交感神経の働きを盛んにします。

神経伝達物質は伝えられただけでなく、元の神経細胞に一部が戻されています。この戻る量が加齢によって減っていくことから、徐々にではあっても神経伝達物質が減って、それが神経伝達の速度を遅くさせることになっているのです。

高齢になると興奮しにくくなるような印象が抱かれがちですが、実際には副交感神経の働きが低下して、そのために興奮しやすくなり、興奮が抑えられにくくなっていきます。高齢者は過去の経験から抑制をすることを覚えているだけで、実際には抑制しにくい状態になっていて、それを偽ってコミュニケーションを取っていると説明されています。

セロトニンもGABAもアミノ酸から体内で合成されます。ドーパミンやアドレナリンもアミノ酸から合成されているのですが、アミノ酸が不足すると体内合成も減少します。高齢になるとアミノ酸が含まれるたんぱく質の摂取が減ることが、よく言われます。

これは年齢を重ねると減っていく筋肉に必要なたんぱく質を減らさないことが主となっていますが、神経伝達を正常に保つためでもあるのです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕