偽る脳力42 よくなるほど苦しみが拡がる自業自得

自業自得と聞くと、自らがやってきた自業のために、よくないことが起こることと一般には認識されています。しかし、自業のために、よいことが起こるのも自業自得であり、その良いことが苦しみを与えることもあります。なりたいと願ってきた状態になれたのに、それが苦しみの元凶になっていることに気づくことができる人は、多くはないようです。

「人間の欲望にはきりがない」との言葉は教訓としても戒めとしてもよく使われています。生きていくために、憲法でもうたわれている文化的な生活に必要なことを求めるのは“欲求”です。この段階で止めることができず、求められるだけ求める“欲望”に踏み込むと、どこまで集めたとしても限度がなくなり、もっと欲しい、もっと買いたい、もっと持ちたいという無限ループに陥ってしまいます。

無限ループはコンピュータプログラムが同じ処理を繰り返して、終了できない状態で使われ、それと同じことをしている人を指すときに使われるようになりました。ITの世界にいて無限ループの怖さを体験してきた人が、自分が成功者(と呼ばれる人)になると、その怖さを忘れてしまい、自分の成功を象徴するようなモノを集め続けないと不安になり、集め続けることが目的ともなりかねなくなった例があげられます。

いつまでも終わらない欲望は、それがかなえられないときに苦しみと感じるようになります。これは自業によって苦しむことで、“自業苦”(じごく)と表現されます。この自業苦を楽な状態に変えることが“業苦楽”(ごくらく)です。これは私の勝手な解釈ではなくて、浄土真宗の開祖の親鸞聖人の教えです。

地獄に落ちないように善行を積むことが大切だと説くのは多くの宗教に共通していることですが、親鸞聖人は死んだら誰もが極楽浄土に行くことができると説いています。浄土真宗には地獄は存在していません。

死んでから無限ループの地獄に落とされることがない代わりに、生きているときに自業によって苦しむ地獄を経験することがあり、業による苦から解放されて楽になるのが極楽という考えです。

「偽る脳力」の間違った使い方によって自ら招いた欲望の地獄(自業苦)を変えることができなければ無限ループから抜け出せなくなります。何が苦しみの原因なのかに気づき、それを極楽(業苦楽)とするために正しく「偽る脳力」を使うべきです。

その気づきに応えてくれる力が脳にはあり、成長につれて確実なものとなっていきます。それを活かせるかどうかは、気づきの機会に巡り合えるか、その機会を自分のものとして受け入れることができるかで左右されます。その受け入れるための能力を身につけていくことを「偽る脳力」というテーマを通して伝えているのです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕