素食のすすめ1 “粗食のすすめ”ではなくて

「“粗食のすすめ”というのは聞いたことがあるけれど、“素食のすすめ”ってなんだ?」「粗食のすすめの間違いではないのか!という声は、この連続コラムを考えたときからありました。

『粗食のすすめ』は医療機関出身の管理栄養士の著書のタイトルでもあり、飽食の時代へのアンチテーゼ(反対命題)の一つとしてメディアにも登場していました。

初版の発行は1995年のことで、私は当時は病院栄養管理研究所に所属しながら、臨床栄養の先生方も迎えて健康科学情報センターを立ち上げたタイミングで、日本臨床栄養協会の機関誌の編集にも関わっていました。

その編集の中で“粗食のすすめ”についても取り上げ、統合医療の病院に所属していた著者から直接、話を聞くことができました。

ご飯は未精製のものを食べ、肉類は少なくするという戦前の粗食の時代に戻すことで、それが健康づくりの基本になるということで、論拠として掲げられていたのは生活習慣病の少なさ、生活習慣病で亡くなる人の少なさでした。

あくまで編集の立場で、発言に疑問や異論を投げかけることはなかったものの、違和感を抱えての取材終了、記事執筆でした。

戦前に生活習慣病は少なかったのは確かで、高血圧、糖尿病、脂質異常症(当時は高脂血症と呼ばれていた)で亡くなる人も極めて少ない状況でした。それが食事の洋風化が大きく進むことで、心疾患(心臓病)、脳血管疾患で亡くなる人が急激に増えました。

だから、粗食に戻せばよいというのは極論で、その当時の日本人は長生きではなかったので、生活習慣病に長く苦しんで亡くなるということも少なかったのです。

終戦後の初めての調査(1947年/昭和22年)では、日本人の平均寿命は男性が50.06歳、女性が53.96歳で、男性は初めて50歳を超えました。戦前ということでは男性は50歳に達していなかったのです。

その当時、アメリカの平均寿命は60歳、北欧では70歳に達していました。現在でいう先進国の中では日本人の平均寿命は最下位に位置していて、当時の長寿国とは20年もの開きがありました。

そこから一気に平均寿命は延びて、世界1位まで上り詰めました。何が影響したのかというと、栄養不足から血管が弱かったのが、たんぱく質の摂取によって血管が丈夫になり、脂肪が補われるようになって免疫も高まったことがあげられます。

日本人の死亡原因は、1947年(昭和22年)には第1位は結核で、第2位は肺炎・気管支炎でした。

日本人が平均寿命を延ばしながら、生活習慣病(当時は成人病と呼ばれていた)が多くはなかったのは昭和30年代後半です。まだ伝統的な食事が残っていながら、不足している栄養素を摂っていた時代であり、戻るとしたら、この時代ではないかという疑問がありました。

ただ、あまりに精製されたもの、加工されたものが増えてきただけに、食品そのものの栄養素(ビタミン、ミネラル、抗酸化物質)を摂ることは重要で、素材、素朴といったことから“素食”というネーミングを思いつきました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕