日本では「素食」と書いたら「粗食の間違いでないか」と言われかねないところですが、中国や台湾、中華系文化の国に行くとメニューで目にする普通の用語です。肉や魚を使っていない料理のことで、ベジタブルフーズを指しています。
五穀、木の実、野菜だけを食べるベジタリアン向けの菜食料理といったほうがわかりやすいかもしれません。
少しだけ詳しくいうと素食は仏教で禁じられている三厭と五葷の摂取をしないことで、三厭は天厭(鳥)、地厭(家畜)、水厭(魚)を指しています。五葷は臭いが強いニラ(韮)、ニンニク(大蒜)、ラッキョウ(辣韮)、ネギ(葱)、アサツキ(浅葱)のことです。
仏教で禁じられているといっても日本の現代仏教のことではないことは、ほとんどの人が知っていることで、浄土真宗の開祖の親鸞聖人が鎌倉時代(31歳のとき)に肉食をするまで、仏教においては殺生と肉食をしないことは当たり前のことで、素食そのものの生活をしてきたわけです。
三厭の動物性食品は殺生をしないということだけでなく、元気のもとであり、五葷の臭いの元の香気成分のアリシンは、糖質(ご飯などの主食)のエネルギー化に必要なビタミンB₁の吸収を高めます。そのビタミンB₁は豚肉をはじめとした動物性食品に多く含まれているので、まさに元気の源で、元気になりすぎることを抑えることも禁じた理由に含まれています。
もう一つの素食が指していることは素材そのものに含まれる栄養素を摂るということで、精製や加工が進みすぎた食品は、元々の状態を意味する“素”とは言えない状態となっています。それだけに加工や飾りのない“裸の状態の食品”が素食と表現されています。
“素”は色で言うと白ではなくて、白以外の色というイメージです。
「因幡の素菟」と原書で書かれても今では通じにくくなっていますが、大国主命で有名な因幡の白兎は、元々は白ではなく素が使われています。これは裸のことで、ワニ(サメ)に皮を剥がされてうさぎを救ったという話で、まさに「因幡の裸兎」だったのです。
体内のエネルギー産生を高めるためには、ほとんどのビタミンとミネラルが必要で、それが含まれるのが加工されていない“素食”であるので、これを摂って健康で過ごしてほしいという思いも“素食”には込められています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕