欺瞞錯誤6 専門家のギャラの変遷

テレビ番組に出て、解説やコメントをしてくれる専門家のギャラについては、以前は相場表が存在していました。これはテレビ局によって違いがあって、“日本薄謝協会”の略と揶揄された英文字3つで略される放送局でも相場表はありました。

薄謝であっても全国放送される、地方番組であっても放送エリアが広く、ステータスが高いということでギャラの多寡は関係ないという専門家が多く、無償でも喜んで登場するということも普通のことでした。

取材収録に1時間以上もかけて、実際に放送されるのは30秒ということであっても、文句が出るようなことはありませんでした。

民放の場合は“撮れ高”が重視されて、使えないような内容、コメントが多い人の場合は撮影時間が長くなって、これは“タイパが悪い先生”と呼ばれていました。タイムパフォーマンスを表す“タイパ”は今に始まった言葉ではなかったのです。

テレビ業界の広告収入が減っていくにつれて、専門家に支払うギャラが下がっていっても相場表は使われていたものの、取材収録の場合には“お土産”のお菓子程度になっても、スタジオに来て解説する専門家にはギャラが支払われていました。

それが一変したのは2011年3月11日の東日本大震災の後で、ギャラが支払われなくても番組に登場する専門家が急に増えました。それ以前は大学の研究者が呼ばれることが多かったのに、医療機関の医師が集患(患者を集める)のためや書籍の宣伝の場として登場する、交通費も取らないというのが当たり前になりました。

2時間番組は収録時間が2倍以上というのは普通のことで、ずっと登場する、他の専門家との“抱き合わせ”でも受けてくれる、局側の希望(実はスポンサーの意向)に合わせたコメントを求められても受けるということがありました。

そのために、しっかりと説明やコメントをしてくれる専門家が呼ばれなくなり、専門家からも避けられるということが続きました。私が付き合ってきた専門家が急にテレビ画面に登場しなくなったのは、そんな事情もあります。

そのような流れは、コロナ禍を経験して、さらに加速化されました。テレビ番組を疑いの目で見る、専門家の言葉も疑って見聞きするという不幸な視聴者を増やすことになっています。
〔小林正人〕