日本人の生活習慣病が増え続けた時代のアンチテーゼ(反対命題)の一つとして「粗食のすすめ」が注目されました。書籍として初めて発行されたのは1995年のことで、時代的には阪神・淡路大震災があり、宗教法人のテロ活動への封じ込めがあり、メジャーリーグに野茂英雄が移籍した年であり、さらにWindows95の年でもありました。
そんな時代の変革の機会でもあって、戦前の粗食に時代に戻すという主張はインパクトがありました。ご飯は未精製のものを食べ、肉類は少ないという戦前の食事が健康づくりの基本になるということでしたが、その論拠として掲げられていたのは生活習慣病の少なさ、生活習慣病で亡くなる人の少なさでした。
戦前に生活習慣病が少なかったのは確かで、高血圧、糖尿病、脂質異常症(当時は高脂血症と呼ばれていた)で亡くなる人も極めて少ない状況でした。それが食事の洋風化が大きく進むことで、心疾患(心臓病)、脳血管疾患、がんで亡くなる人が急激に増えました。
だから、粗食に戻せばよいというのは極論で、その当時の日本人は長生きではなかったので、生活習慣病に長く苦しんで亡くなるということも少なかったのです。
終戦後の初めての調査(1947年/昭和22年)では、日本人の平均寿命は男性が50.06歳、女性が53.96歳で、男性は初めて50歳を超えました。戦前ということでは男性は50歳に達していなかったのです。
その当時のアメリカの平均寿命は60歳、北欧では70歳に達していました。現在でいう先進国の中では日本人の平均寿命は最下位に位置していて、当時の長寿国とは20年もの開きがありました。
そこから一気に平均寿命が延びて、世界1位まで上りつめました。何が影響したのかというと、栄養不足のために血管が弱かったのが、たんぱく質の摂取によって血管が丈夫になり、脂肪が補われるようになって免疫も高まったことがあげられます。
日本人の死亡原因は、1947年(昭和22年)には第1位は結核で、第2位は肺炎・気管支炎でした。
日本人が平均寿命を延ばしながら、生活習慣病(当時は成人病)が多くはなかったのは昭和30年代後半です。まだ伝統的な食事が残っていながらも、不足している栄養素を摂っていた時代であり、戻るとしたら、この時代ではないかと考えています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕