パソコンのWordソフトを使って文章を作成していると、ひらがなで打ち込んで変換キーを押せば、ちゃんと正しい漢字に変換されます。「うわて」と打てば上手に、「かみて」と打てば上手に、「じょうず」と打てば上手と変換されます。読み方が違っても同じ漢字になるわけで、これが海外の方々から日本語は難しいと指摘される一つの要因となっています。
なんで、こんな話をするのかというと、テレビのディレクターにアドバイスをした結果の台本を見せられたときに、“こんな漢字にフリガナがつけられている”のかと驚きと戸惑いを感じたからです。フリガナをつけるのは読み間違いを防ぐためだということはわかっています。番組を見ていて、読み間違いをしていることに気づくことも少なくありません。台本はWordソフトを使って作られているので、上手に変換されるものの前後の文章を見ないで、ただ漢字にだけ注目していると読み間違いすることもわからないではありません。
上手「うわて」は、技能・学力などが他よりすぐれていることを示す言葉ですが、相撲で出てくることが多く、その場合には四つに組んだとき相手の差し手の外側からまわしを取ることです。この話を前に漢字にして示したところ、「よつ」ではなく「よっつ」と読まれて、相撲で「よっつ」はないだろうと思ったりしました。他に「うわて」は犬追物で自分の馬の前に立った射手のこと、石帯の左の一端についている革帯を指します。
上手「かみて」は上の方、上座の方のことで、舞台では見物席から見て右の方を指します。
上手「じょうず」は、これは説明することもなく、物事に巧み(たくみ)なこと、手際(手ぎわ)のよいこと、世辞(せじ)のよいこと、如才(じょさい)のないことを指します。
前回の最新情報のコーナーで紹介した和気町には“和文字焼き”があります。和気町の観音山に「和」の火文字を描き出し、花火も上がるお祭りで、8月15日の京都の大文字焼きの翌日に和文字焼きを行って、二つを合わせて“大和”となるということです。和文字は「わもんじ」と読みます。「わもじ」と読むと日本の書体の意味になります。
京都の大文字は「だいもんじ」と読みますが、元々は大という漢字や大きく書いた文字のことです。欧文の大きな文字を示すことでもあって、この場合には「おおもじ」と読みます。
ある“著明”な先生ではなく、著名な先生の講演を聞いていたときに、健康に関わる食品についての話で、物事の善悪の判断のことを示すために「よしわるし」と言っていたので、何のことか理解するのに時間がかかりました。周りの方々の表情も、そんな感じでしたが、正しいことを使ってもらわないと、せっかくの良い話が悪い結果にもなりかねません。どうも先生は「善し悪し」を「よしわるし」と呼んで、それを更新することなくベテランになってしまったようです。「よしあし」とパソコンに打ち込むと「良し悪し」が先に出てくることがあるので、さらに「よしわるし」と読む人が増えてきそうです。
頭の中で“変換ソフト”を働かせないと、正しい漢字、正しい意味が理解できないこともあるので、話を聞くほうも勉強をしておかないといけないのかもしれません。