迷言9「信じるものは掬われる」その3

栄養学の重鎮の体験談に続いて、今回は臨床栄養の重鎮の体験談です。その話を聞くことができたのは、前回の糖尿病患者は尿から糖が多く排出されるので糖を戻してやるという今では、どう考えても違っているだろうという逸話を話したときのことです。臨床栄養の重鎮なので、栄養学の重鎮のことも知っていて、実際に戦後の混乱期の糖尿病患者の約束食事箋ではあったことも承知していました。

その臨床栄養の重鎮は、国立大学の医学部を卒業して医師となり、大学病院に配属されたのですが、そのときに教授でもある大先輩の医師から指示されたのは「腎臓患者は尿からタンパク質が排出されるので、食事のたんぱく質を増やす」ということでした。

たんぱく質は食品に含まれているものを指していて、タンパク質は体内にあるものを指すというように、ここでは使い分けています。

尿検査で蛋白尿が調べられるのは、尿に含まれるタンパク質の量が腎機能のバロメーターになっているからです。タンパク質は身体にとって大切な構成成分であるので、健康な状態ではタンパク質を排出するようなことはなくて、尿にタンパク質が混ざるようなこともありません。

ところが、腎臓の疾患になると、腎臓で濾過をする糸球体をタンパク質が通過して尿に混ざるようになります。

尿蛋白が出る腎臓病としては、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、ネフローゼ症候群があげられます。

糸球体を通過しないはずのタンパク質が通過する状態は、糸球体にも大きな負担になります。そのために尿にタンパク質が出ること自体が腎臓病の進行を早めることになります。そのため、たんぱく質の摂取量を減らすのか腎臓病の食事療法の基本となります。

それなのに尿から排出されるので、元に戻そうとするのは足元から掬われた(すくわれた)ようなもので、これは今の常識は間違いかもしれないと思って、常に勉強をして、最新情報を得ることが重要という戒めとなっています。

このことを伝えるために、講習の場で「信じるものは掬われる」という諺もじりを使って話をしているのです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕