日々修行58 食事への苦情は本心なのか

「病院給食はおいしくない」という声があるのは本当なのか、「おいしくないという声が入院患者からないので問題ない」という考え方をしてよいのか、というのが今回のテーマです。

病院経営に関する雑誌では病院給食が取り上げられることが多く、中には人気のランキングが掲載されることもあります。アンケートや調査の方法によって、返答に違いが出てくることは当たり前のことで、ランキングの上位になっているからといって安心することはできないはずです。

よく知っている病院が病院給食ランキングでトップになったときに、病院長から取材を受けるとの連絡がきたことがありました。それまでは何回か取材の申し込みをしても受けてもらえなかったのに、変化があったのは、私が見聞きしてきた内容と大きく変化しているのではないかと期待して訪問しました。

その期待感に反して、内容的には特に変わったところはなくて、「患者から苦情は出ていないから大丈夫」という自信のコメントがありました。

ここから先は、その病院のことを書いているわけではないのですが、入院患者は苦情や要望を言って、それが3回かなえられないと諦めの心境で要望を伝えなくなっていきます。これは病院給食に関わる栄養士や調理師、配膳をする看護師から、よく聞くことです。

これとは逆のこともあり、入院中に患者に入院環境についてアンケートをすると、食事の苦情ばかりということがあります。入院中のアンケート結果を見て、「ここまでひどい食事を提供しているのか」と激怒した経営者もいました。

私が相談を受けた病院では、おいしいとは言いにくいとしても、まずいという評価は当たらないという判定をしていました。実際に検食(提供する食事と同じものを食べてチェック)で食べても、普通の状態でした。

アンケート結果の統計だけでなく、調査票を見せてもらったら、だいたいのことはわかりました。その結果は、これまでに経験してきたことと同じだったからです。

病院では、日常の生活環境とも違い、身体も正常な状態でないので、気になることは数多くあります。苦情のレベルとしては医師や看護師のほうが大きくても、入院中には苦情、文句は言いにくいものです。そこで“吐け口”として、食事がターゲットにされます。おいしい状態ではないことがわかっているので、患者の声は素直に受け入れるしかないということも知っているからです。

この指摘が合っているのかを確かめるために、退院直前、もう医療の世話になる必要がないという段階でもアンケートをしてもらっています。この結果と入院中の結果が同じであれば、これは入院中には本音が聞き出せたことになります。

ところが、多くは食事への苦情は少なくて、医師や看護師などへの、苦情が急に多くなります。これを見れば食事への苦情が“吐け口”となっていたことがわかります。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕