日々修行59 治療食がおいしくないのは当たり前?

病院給食は、生活習慣病などの治療目的ではない常食であれば、それほどおいしくないと評価されるものではないはずです。

おいしさは料理の内容や味だけでなく、食べる環境、提供する人、一緒に食べる人によっても感じ方は変わってきます。そのため、病院で出されていた食事と同じものであっても、退院後に家庭で食べると、おいしさの評価が違ってくるのは当然のことです。

ところが、どこで食べても「おいしくないものはおいしくない」と評価される治療食があります。それは糖尿病食や腎臓病食で、指示通りに作るほど、おいしく感じないことにもなります。

糖尿病食というと、糖質の摂りすぎで血糖値が上昇することから、糖質を減らした食事という印象があります。以前に比べると、“糖質制限”が受け入れられてきたので、炭水化物(糖質)が少ない食事であっても、それほど苦ではないという人が増えてきました。

糖質を減らせばよいと思っていた人が、医師や栄養士からメニュー例を渡されて唖然とすることもあります。糖質であるご飯やパン、麺類を減らすだけでなく、肉も魚も油も減らされたメニューばかりになっているからです。

糖尿病は血糖値が一定の基準を超えると診断されるのが原則です。血糖は血液中のブドウ糖のことなので、血液中のブドウ糖を減らす、つまり食事でブドウ糖が多く含まれる糖質を減らせばよいと考えられがちです。

ところが、糖尿病治療の食事の基本は、全体的な摂取エネルギー量を減らすことで、エネルギー量が高い肉、魚、脂肪も制限されます。

糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンが減ることによって血糖値が上昇することから始まります。インスリンが多く必要な食生活を続けていると、膵臓が疲弊してインスリンが分泌されにくくなります。

インスリンは肝臓で脂肪を合成したり、脂肪細胞の中に脂肪を蓄積するためにも使われます。脂肪が多く食事、摂取量が多いと体内で脂肪に合成される糖質、たんぱく質の摂りすぎでもインスリンが多くなり、膵臓の働きを低下させることになります。

糖尿病食は、普通ならダイエット食、健康食ですが、日常で食べている食事とは違ったメニューが出されることもあります。そのために、好きな料理だけを食べていればよい、というわけにはいかなくなり、これがおいしさを感じにくくさせることにもなります。

糖尿病食では、これまでの糖質とたんぱく質の摂取が急に変化することがあります。それは重症化して、合併症の腎症が現れたときです。通常の糖尿病では、血管を丈夫にしておくために、たんぱく質の摂取が増やされます。

ところが、糖尿病性腎症になると、たんぱく質は腎臓に負担をかけるので、極端に減らされます。料理でおいしさを感じるのは、多くはたんぱく質が多く含まれる食品です。

その代わりに、エネルギー不足にならないように、糖質や砂糖が増やされます。そのために食事が全体的に甘くなり、おやつを食事とは別に食べることもすすめられます。治療食の検食として病院で何度も腎臓治療食を食べたことがありますが、これがずっと続くのは想像を絶する苦しさです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕