病院給食の最大の目的は、療養のための食事であるので、栄養的に満たされていて、おいしさを感じて出されたものの全部を食べてもらうことです。その目的を優先させるあまり、食器の重要さを忘れたようなことも起こりがちです。
ある大学病院の分院が新たに建設されることになり、入院患者数も多いことから食事も新たな取り組みをするということになって、私がよく知っている厨房設計の専門家が担当することになりました。
厨房の設計のほうは特に目新しいものはなくて、超大型の食器洗浄機が導入されました。その理由が驚きを誘うことで、トレー食器に対応するためということでした。
トレー食器というのは、トレーに凹凸がついていて、ここに料理を盛り付けるためのものです。学校給食や産業給食では採用しているところもあり、汁椀は別につけるとしても、主食のご飯もトレーに盛り付けられています。
病院給食では、ご飯と汁物は食器に乗せて提供していましたが、それ以外の料理などはトレーの上に盛り付けるだけという、これをよい意味で表現するなら“効率的”でした。
トレーに食器に盛った料理を乗せていくよりも配膳の手間がかからず、食器洗浄も簡単に済むということで効率的な食器であることは確かなことです。しかし、これが病院給食に向くのかということは誰もが気づきそうなことです。その気づくであろうことに、初めて気づいたのは開業の初日でした。
おかず(主菜・副菜)を口元に持っていくためにはトレー食器を持ち上げるか、トレー食器に口を近づけるかをしないといけないことになります。食事に介助が必要な患者であれば、介助者はトレー食器ごと持たないといけないで、重くて、時間がかかってしまいます。これでは治療食の目的が達せられなくなります。
そのために、苦情の連続で、翌日の食事に合わせるために、食器の全取り換えとなりました。また、すぐには取り換えとはいかなかったものの、食器洗浄機も入れ替えをすることになり、随分と余計な経費がかかることになりました。
そもそも料理は、それにあった食器に盛られていてこそ食べやすく、おいしく感じるものです。トレー食器は同じ色のものであったので食器の彩りと料理の関係性は、まったく無視をされたものでした。
食器で食べるとしても、いつも同じ柄のものでは食欲にも影響が出てきます。しかし、複数の食器を導入するには費用がかかります。購入だけでなく、収容するスペースも必要になります。
この改善について相談されたときの私のアドバイスは、病棟ごとに柄違いにして回して使うということでした。病棟の数だけ食器の種類が増えるのに、全体の数は変わっていないということで、採用した病院からはよい評価をいただきました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕