なぜおいしいものは食べ過ぎるのか

生活習慣病の予防・改善のために栄養指導を受けると、必ずといっていいほど制限されるのが“おいしい”ものです。おいしいは「美味しい」とも書かれますが、美味の食品・料理は、どうしても食べ過ぎになりがちです。おいしいものを、ついつい食べてしまう生活習慣が生活習慣病を引き起こすとみられているわけですが、この生活習慣病という名称は、100歳を超えても現役医師として活躍して105歳で亡くなった日野原重明先生が命名したと伝えられます。
伝えられているということで、実際には1996年に当時の厚生省(現在は厚生労働省)の健康局長が成人病から生活習慣病に改称しました。成人病の名称は1955年から使われてきました。日野原先生が名付けたのは「習慣病」ですが、生活の習慣が病気を引き起こすことから、この習慣を変えることで予防するという発想は、生活習慣病の考えそのものです。
多くの量を食べることは今では悪いことのように言われますが、時代が時代なら、つまり食べたくても食べられず、栄養が不足していた時代には、これは生き延びるため、生き残るためには重要な生命維持の手段でした。多くの量を食べて、多くのエネルギーを作り出すことは、次の食べ物を見つけて獲得するために重要なことで、余ったエネルギーは脂肪に合成されて体脂肪として、いざという時のために蓄えられていました。この“いざ”という時に備える能力は変わりがないのに、今は“いざ”という時がないので、体脂肪が多い太った状態はよくないように言われています。
一番よいのは、充分に体脂肪として中性脂肪を蓄えておいて、いざ使わなければならなくなったときに効率よく燃焼させて、エネルギーを作り出すことができることです。そのエネルギーを効率よく作り出すために必要となる三大ヒトケミカルのα‐リポ酸、L‐カルニチン、コエンザイムQ10については再三、紹介してきました。これらの成分については、このサイトの「サプリメント事典」を参照してください。
おいしいものは太るということは、おいしいものはエネルギー量が高いということで、脂肪は1g当たり約9kcalと、糖質の約4kcalと比べると少ない容量で多くのエネルギーを蓄えられることから、エネルギーとして使われずに余った糖質もたんぱく質も脂肪も肝臓で脂肪酸に合成されて、中性脂肪として蓄積に回されているわけです。
自由に食べることができなかった時代には、同じだけの量を食べるなら、少しでもエネルギーが多く摂れるものを選ぶことが重要で、エネルギー量が高いものをおいしく感じるのは生き延びるための能力として身についてきたと考えられています。糖質は甘くて、おいしく感じますが、それは脂肪も同じことで、脂肪のサシが多く含まれる霜降り肉はおいしい肉類の代表となっています。安い牛肉に脂肪を注入する加工法があり、これだと目を閉じて食べると高級品のように感じることから、おいしいものを食べている著名人の舌の状態をチェックする方法として使われています。それくらい脂肪は味覚を刺激するものなのです。