セレンは健康維持に必要な必須ミネラルで、体重60kgの人では体内に10mgほどしか存在していない微量ミネラルです。量が少ないということは、その量が少しでも減少したら健康に影響が生じやすいということです。
セレンには抗酸化作用や代謝促進作用があり、不足すると代謝が低下して毛髪の脱落や爪の変形などが起こり、極端に不足した場合には死に至ることさえあります。
脱毛は遺伝やホルモンバランスの乱れ、ストレスが大きな原因と考えられていますが、食事の変化によるセレン不足も大きな要因となっていることが指摘されています。
セレンが不足すると脱毛のほかに毛髪の再生の遅れ、極端に細い毛髪や柔らかい毛髪しか生えないということも起こりますが、セレンは肉、魚、野菜などに含まれ、通常の食事では不足しないとされています。
しかし、食事の種類や量が同じであってもセレンが不足している人がいて、その原因として身体の消化、吸収、代謝などが考えられ、研究が進められてきました。その結果、明らかにされてきたのが腸内細菌のバランスでした。
腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌に大きく分けられ、健康的な腸内環境とされるのは「2:1:7」の割合となっています。
腸内細菌は、どれも栄養源を取り入れて、代謝物を排出しています。人間にとってよい代謝物を作り出すのが善玉菌、害となる代謝物を作り出すのが悪玉菌とされています。
日和見菌は腸内環境によって善玉菌にも悪玉菌にもあるもので、善玉菌が多い腸内では善玉菌としての働きをして、悪玉菌が多くて善玉菌が少ない腸内では悪玉菌の働きをすることが知られています。
悪玉菌が善玉菌よりも多くなったときには日和見菌が悪玉菌と同じような状態になって、ほとんどが悪玉菌といったような状態となってしまうというわけです。
善玉菌と悪玉菌の栄養源はほぼ決まっていて、善玉菌が主に取り入れているのは主食(ご飯、麺類、パンなど)の糖質と乳製品、食物繊維です。乳製品には乳糖が含まれていて、乳糖が善玉菌の栄養源となっています。
悪玉菌が主に栄養源として取り入れているのは動物性たんぱく質と脂肪です。糖質制限のやりすぎや野菜が不足した食生活では善玉菌が減りやすく、肉や脂肪が多い洋食では悪玉菌が増えやすくなります。
日本人は年齢を重ねると乳糖分解酵素が減少しやすく、そのために乳製品を食べても善玉菌が増えにくいという特徴があります。
善玉菌には腸内での発酵を進めて、便を軟らかくして通過しやすくする作用があります。悪玉菌には腸内での腐敗を進めて、便を硬くする作用があるために便通が悪くなります。
食物繊維には便の量を増やすとともい腸壁を刺激して便通を促進する作用があるので、食物繊維を多く摂ることは便通にはよいことになります。
ただし、野菜の葉や根菜などに多い不溶性食物繊維は便を硬くする作用もあり、海藻、きのこ、果物に多く含まれる水溶性食物繊維には便を軟らかくする作用があるので、水溶性食物繊維を意識して摂ることが大切になります。
腸内細菌の善玉菌を増やすことによってセレンの吸収がよくなるということですが、その仕組みについては千葉大学(大学院薬学研究院予防薬学研究室)の研究によって解明されています。
その研究はラットを用いて実験されたものですが、セレンは善玉菌が多い腸内細菌叢によって、さまざまなセレン化合物はセレノメチオニンに代謝されることが明らかになりました。
食品に含まれるセレンは分子形態が多様で、糖やアミノ酸などのセレン化合物の形があります。食事の嗜好によって摂取するセレン化合物が偏っていたとしても、腸内細菌叢がセレノメチオニンとすることで吸収がよくなるということです。
セレン化合物から代謝されたセレノメチオニンは腸内細菌の中に貯蔵されることも明らかにされました。これによって食事によるセレンが不足する期間があっても、セレンが不足しないのは、この作用によるものと考えられています。
腸内細菌は腸内で増殖しやすい温度帯があります。腸内の温度が高いときには善玉菌も悪玉菌も増殖するのですが、腸内の温度が低いときには善玉菌が増殖しにくいのに対して悪玉菌が増殖しやすくなっています。
腸が冷えている状態では悪玉菌が増えることから善玉菌が減ることになるので、お腹を温めることが腸の状態だけでなく、毛髪にも影響してくるということになります。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕