毛髪の科学29 紫外線と発毛抑制の関係

紫外線は皮膚のシミやシワの原因となります。これは光老化と呼ばれるもので、紫外線のダメージが皮膚の細胞を老化されていく現象です。皮膚の老化の8割以上は紫外線が影響していると言われますが、頭皮も皮膚の一部で、当然のように紫外線の影響を受けています。

毛髪によって守られているように思われても、紫外線は容赦なく頭皮にダメージを与え続けます。どのようなダメージかというと、紫外線を受け続けると頭皮のタンパク質が変化して硬くなり、弾力性が失われていきます。

硬い頭皮は血流が低下して、そのために毛髪の発育が抑制されます。また、毛髪も80%ほどがタンパク質であることから、切れ毛や抜け毛の原因となります。

紫外線にはUVA、UVB、UVCがあり、このうちUVCはオゾン層に吸収されるため、人体に影響を与えることはありません。UVAは紫外線の90%ほどを占めていて、皮膚の奥の真皮まで届いて、皮膚の弾力性を失わせて大きなシワを作り出す作用があります。

UVBは紫外線の10%ほどですが、日焼けによる炎症を起こすと同時に、メラニン色素の沈着を起こす作用があります。頭皮の環境に影響を与えているのはUVBです。

毛髪の育成のために有効であるとされる成分が、人によって効きにくいことがあるのは以前から指摘されてきたことですが、紫外線による影響については検討されることは、あまり進んでいませんでした。

大正製薬は、頭皮が受けた紫外線と発毛の関係について日本薬学会で発表して、新たな考え方を提案しています。

紫外線(UVB)をマウスに照射した試験では、炎症性細胞の浸潤とDNA酸化損傷マーカーの上昇が認められ、発毛が抑制されました。炎症や酸化が起こった頭皮では毛髪の再生が遅くなり、これが抜け毛を増やし、再生を遅らせる要因となります。

紫外線を照射すると炎症関連遺伝子の発現が増加しますが、その一方で発毛や育毛に重要な遺伝子の発現は抑制されていました。これによって紫外線によって発毛が抑制されるメカニズムの一つが明らかにされたわけです。

紫外線を照射して頭皮環境が悪化したマウスに、発毛作用がある成分として知られるミノキシジルの効果について調べています。ミノキシジルは血管拡張作用があり、高血圧対策の血管拡張薬として開発されましたが、毛髪を育成して脱毛症を回復させる発毛作用があることがわかり、発毛剤に使用されています。

今回の試験では、炎症や酸化が起こっている頭皮細胞ではミノキシジルの発毛作用が減弱することが確認されています。血流促進作用が、紫外線によってダメージを受けた頭皮には効きにくいという結果でした。

毛包は毛髪を作り出す組織で、外から見える部分は毛穴と呼ばれています。毛包の基部には毛乳頭があり、毛乳頭の周囲にある毛母細胞が血管から毛髪に必要な成分を吸収して、細胞分裂して増殖しています。

毛包を構成する毛包角化細胞は、発毛成分のグリチルレチン酸、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ヒノキチオールを添加することによって増殖が促進されています。

グリチルレチン酸は漢方に使われるマメ科の薬用植物の甘草の成分で、甘いことから甘味料としても使われるのですが、抗炎症作用があり、皮膚への刺激が少ないことから医薬品成分としても使われています。

ジフェンヒドラミン塩酸塩はアレルギー症状を引き起こすヒスタミンの作用を抑えて、かゆみや炎症などの皮膚の症状を抑える抗ヒスタミン薬です。鼻炎を抑える成分としても知られていますが、多くの発毛剤に補助成分としても使われています。

ヒノキチオールは檜(ヒノキ)の精油成分から発見されたもので、青森ひばに多く含まれています。抗炎症作用、抗菌作用があり、やはり発毛剤の補助成分として使われています。

毛包角化細胞に紫外線を照射したところ、毛包角化細胞の増殖が抑制されることがわかり、紫外線を照射した毛包角化細胞では炎症に関連する遺伝子の発現が上昇することが認められています。

毛包角化細胞にはスルホトランスフェラーゼ1A1という酵素があり、この酵素が増殖に関わっていますが、紫外線を照射するとスルホトランスフェラーゼ1A1遺伝子の発現が低下することが認められました。ところが、グリチルレチン酸を添加することによって、発現が上昇することが確認されています。

毛乳頭細胞に紫外線を照射すると脱毛因子とされるBMP2の発現が上昇して、脱毛シグナルのBMPシグナルが活性化することがわかりましたが、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ヒノキチオールの添加によって、発現が抑制されることが確認されています。

このようなことから、紫外線の影響を受けた場合でも有効性が認められる成分が明らかになり、これらの成分が含まれる発毛剤が注目を集めるようになっています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕